今回は私の友人のかっこちゃんについて書きます。かっこちゃんは養護学校の先生で作家、本名は山元加津子と言います。日本のマザーテレサになりつつある女性なんて言われているようですから、すでにご存知の方も多いかもしれません。
直接お目にかかったのは一度だけですが、交流が始まって10年以上になります。ここしばらくは連絡が途絶えていたのですが、先日、久々にメールが飛び込んできて、ビックリ。かっこちゃんは今、これまでとは全く違った世界でまたスゴイことをやりつつあるのです。
かっこちゃんが出した本の出版社から、ほぼ同じ時期に私も本を出版したことがきっかけとなりました。その「たんぽぽの仲間たち」(三五館)に描かれた養護学校の生徒さんたちとかっこさんの交流は、胸がじーんと熱くなる感動的なものでした。
生徒と呼ばず、「私の大切な友達」と呼ぶかっこちゃん。中でも強烈な印象を与えてくれたのは、“詩人”の大ちゃんでした。世間からは知的障害と呼ばれている子供の中に潜む感性を見事に引き出し、心の叫びを素晴らしい詩のカタチで私たちに見せてくれたのです。
「僕が生まれたのには、理由がある。生まれるってことには、みんな理由があるんや」
「朝顔のたねは黒いけど 青い花が咲く。赤い花が咲く。だからぼくは詩を作る」
「遠い道でもな 大丈夫や 一歩ずつや とちゅうに 花もさいているし とりもなくし わらびかてとれるやろ」
詩だけを見ていたら、大ちゃんがいわゆる知的障害児とは到底思えません。しかし、それは私たちが知的障害と言われている人たちの真実の姿を知らないで、勝手な思い込みによって、イメージを作ってしまっているからに違いありません。
確かに大ちゃんはIQは低いかもしれませんが、そもそもIQって何なんでしょうか?IQなんて所詮、脳のある種の機能を測るデータのひとつに過ぎません。IQは高いけれども、人間としてはどうしようもないバカものというのはいくらでもいるではないですか。
かっこちゃんのスゴイところは、IQなどには紛らわされずに大ちゃんの本当の心と向き合うことができ、しっかりコミュニケーションがとれることです。だからこそ大ちゃんの天才的詩心をもキチンと発見することもできたのです。
かっこちゃんは文字通り天使のような女性です。ミュージカル「葉っぱのフレディ」の金沢公演に来てくれた時に初めてお目にかかりましたが、私の想像を少しも裏切らない慈愛に満ち満ちた人でした。傍にいるだけで、じんわりとそのぬくもりが伝わってくるようでした。
そんなかっこちゃんが今、闘っています。かっこちゃんから久々に送られてきたメールで私はそのことを知りました。そして、新刊「満月をきれいと僕は言えるぞ」(三五館)の中に、その闘いぶりが詳細に綴られていました。
元同僚で親友の特別支援学校教諭、宮ぷーこと宮田俊也さん(43)が2009年2月、突然の脳幹出血で倒れたことから、かっこちゃんの生活も一変しました。宮ぷーは一命は取り留めたものの、ドクターに「一生植物状態で一生、体のどこも動きません」と宣告されてしまいました。
しかし、「心から湧き上がるように『だいじょうぶ』だと思った」というかっこちゃんは毎日病室に通い、懸命に語りかけ、励まし、手足の曲げ伸ばしをしたり、さまざまな刺激を与え続けました。かっこちゃんはずっと特別支援学校で先生をやってきましたから、どんなに重い障害を持った子供であっても、誰もが気持ちを持っていて、それを伝えようとしていることを知っていたのです。
宮ぷーの脳のCTは例のないほど大きな出血の跡を写し出していました。反射でどこかが動くことはあっても、声をかけても、揺すっても、体のどこも動かせないままでした。倒れて8日目に目を開けました。
かっこちゃんは「目が開いた、目が開いた」とドクターやナースに喜びの気持ちを伝えました。しかし、ドクターは「残念ながら、なぜか植物状態の人は昼間に目を開けて、夜は目を閉じるのですよ」と言うばかり。それでもかっこちゃんは動じませんでした。自分がだいじょうぶだと思った感覚を信じたのです。
倒れてまもなく2カ月になろうという時、「今日は晴れですか?」というドクターの問いかけに対し、宮ぷーはパチっと閉じました。それでもドクターは「万に一つも意識を取り戻すのはむつかしい」と言いますが、かっこちゃんは信じません。
このかっこちゃんの強い思いが奇跡を起こしていくのです。「宮ぷーの気持ちがわかりたい」と思ったかっこちゃんの気持ちが伝わったのでしょうか、宮ぷーは少しずつではありますが、反応を示すようになってきました。そして、あいうえお表を目で追うようになってきました。かっこちゃんは目の玉の動きを必死に見ながら、宮ぷーが何を言おうとしているのか、その言葉を探しました。
初めて、かっこちゃんが確認できた文字は「か」と「こ」でした。「かこ」とは何か?それは「かっこ」ちゃんのことでした。宮ぷーが名前を呼んでくれたことを知り、かっこちゃんは宮ぷーの胸に顔を埋めていっぱい泣きました。宮ぷーには意識があるし、伝えたい思いもある。ただ、それをうまく表現できないだけの状態だったということをかっこちゃんは確信することができたのです。
宮ぷーはレッツ・チャットという意思伝達装置によって、自分の気持ちを伝えられるようになりました。器械の手を借りることによって会話ができるようになったのです。一時、メーカーが生産を中止することになった時、かっこちゃんは生産継続の応援メールを呼び掛けました。その結果、メーカーも中止の決定を覆し、生産を継続することにしました。かっこちゃんの思いが伝わったのです。
宮ぷーは今、レッツ・チャットでブログを書いています。
http://ameblo.jp/miyapu-ohanashi/
宮ぷーがどのように回復していったかは動画サイトで確認することができます。
http://www.youtube.com/watch?v=jyGrJ5bfa1E
言葉だけではイメージしにくい話ではありますが、映像を見れば一目瞭然です。かっこちゃんは毎日、宮ぷー日記を書いています。
http://www.mag2.com/m/0001012961.html
かっこちゃんはやっぱりスゴイ人です。宮ぷーを毎日、支え続けているだけでなく、意思伝達装置がまだ十分に普及していない現状を変えようと、具体的なアクションを起こしています。
おはなしだいすき。
http://ohanashi-daisuki.com/
自分が倒れたときに、「意思伝達の方法を長期にわたって探ってほしい」というカード、ノーティス!カードも提案しています。
そんなかっこちゃんのことをナースのみなさんにも幅広く知ってもらいたいと思い、ご紹介した次第です。ナースにとっても見習うべき点がたくさんあるのではないでしょうか。(以上)