第50回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第50回 新政権下で看護協会はどうする?

 ついに政権交代が現実のものとなり、鳩山政権が誕生しました。国会の様相も一変し、歴史が変わったんだなということを、私たちも肌で実感することができました。さて、鳩山総理が実際にどのように政治を変えていってくれるのか、紆余曲折もあるでしょうが、しばらくは温かい眼で見守っていきたいものです。

 ところで、今回の選挙結果を受けて、たいへんなのが日本看護協会です。正確には政治団体としての日本看護連盟です。これまで連盟は自民党一党支持を守ってきましたが、はたしてこういう状況になっても、同じ方針を貫くのでしょうか?

 以前、このコラムにも書きましたが、来年の参議院選挙を前に、たかがい恵美子さんという、これまでに看護界にはいなかったタイプの華のある素晴らしい候補の擁立を連盟は決定しました。まだ、立候補する政党は正式には決めてはいませんが、連盟はこれまでずっと自民党一党支持を続けてきましたから、基本的にはそうなるだろうと、少なくとも自民党関係者からは期待されているでしょう。

 看護連盟は一貫して「政権党支持」を表明してきました。考えてみればずいぶんと都合のいい話ではありますが、これまでは自民党がずっと政権党でしたから問題にはなりませんでした。しかし、政権交代が実現した今となっては、その方針通りにすれば、「民主党支持」に変更しなければなりません。そんなに簡単に長年、苦楽を共にした自民党に手の平を返すことができるものなのでしょうか?

自民党が野党転落という苦境に立った時に手を引くというのも、後味のいい話ではありません。しかも、会長の清水嘉与子さんは自民党の参議院議員でしたから、宗旨替えをするというのは容易なことではありません。

 では、政権党支持という方針を撤回して、自民党支持を鮮明にするとどうなるのでしょうか。それはまさに自民党と命運を共にするということです。もしも近い将来、自民党が政権復帰が果たせたとなると、苦しい時に看護連盟が支えたおかげだということで、連盟の立場は一気に強くなるでしょう。

 しかし、今の自民党を見ていると、本当にそんな時が来るのだろうかと懐疑的になってしまう人の方が多いのではないでしょうか?来年の参議院選挙で民主党を圧倒的にたたきのめすことができれば、次の総選挙の結果次第ではありえないことではありませんが、それは少なくとも4年後でしょう。

 308議席も獲得した鳩山総理が衆議院を4年以内に解散する可能性はきわめ低いと言わざるをえません。もちろん政界は一寸先は闇と言われる世界であって、何が起きても不思議ではありませんが、政権という権力の持つ接着剤効果は圧倒的です。それが自民党長期政権につながった最大の要因でもあります。せっかく手にした政権を手放すきっかけになる危険性があるような解散総選挙を、わざわざ民主党が仕掛けるはずはないと私は思います。

 300議席を確保した自民党も結局、4年間は解散しませんでした。もし、今後4年以内に解散があるとすれば、それは例えば公明党にも見捨てられて息絶え絶えになった自民党の息の根を、民主党が止めてやろうとする時でしょう。それは自民党が終焉するシナリオです。万が一、そんなことになったら、自民党を支持し続けていることで失うものも大きすぎます。

 それでは、自民党支持を貫くことのリスクが高いからと言って、この際、民主党支持に変更すればどうなるでしょうか?政権党支持という方針だからと言ってしまえば、それなりに筋は通ります。しかし、看護連盟にとっては歓迎すべからぬ事態が起きていたのです。

 今回の衆議院選挙で前の日本看護協会の常任理事だった山崎麻耶さんが民主党から比例代表の北海道ブロックで当選してきました。彼女は肩書とは反し、日本看護協会からは自分たちの代表だとは思われていません。むしろ敵対的存在といった方がふさわしいかもしれません。「上から目線」「傲慢」「権力すり寄り志向」などという評価が多く、あまりいい評判は私の耳に入ってきたことはありません。

 彼女は前回の参議院選挙の際にも立候補しましたが、連盟は代表候補として認知しませんでした。それでも彼女は日本看護協会の常任理事という肩書を売り物にして選挙戦を闘いました。それだけでも執行部の感情を逆なでするに十分でしたが、結果、当選圏が20万票だった中で、2万7千票しか獲得できず、見るも無残な大惨敗を喫してしまいました。看護票が割れたからだろうとも思われましたが、看護連盟の擁立候補だった松原まなみさんも16万7千5百票でしたから、二人足しても当選圏には入りませんでした。

 その時の敗北で、彼女は政治的にはもう終わったんだろうと見られていました。あの雪辱を果たすべく連盟は正統派候補としてたかがいさんを擁立し、来年の参議院選挙の準備を着々と進めていたのでした。ところが今回の民主党大躍進の波に乗って、山崎さんはバッジを確保したのです。彼女は北海道ブロック比例名簿の一位を獲得していましたから、民主党はあんなに大勝ちしなくても、当選は確実となっていました。さすが、「権力すり寄り志向」と評されても動じなかっただけあって、その立ち回りはなかなか巧みなようです。

 連盟として民主党支持を決めるためには、山崎さんというハードルを超える必要が出てきてしまいました。今さら頭を下げられるかという思いの幹部も少なくないでしょう。しかし、いずれにせよ、山崎さんは政権党の看護の専門家であることは間違いないのですから、連盟なり、協会なりが政界に働き掛けようとする時に、彼女を無視するわけにはいかなくなってしまったのです。

 山崎さんからすれば、かつて自分を見捨てた連盟を見返してやったという思いでいっぱいでしょう。両者のわだかまりは相当に根深いものです。連盟が頭を下げてくれば、山崎さんとしては溜飲の下がる思いをするでしょうが、連盟にもプライドがありますから、そう簡単にはいかないでしょう。連盟にとっては、自民党を取るか、民主党を取るか、いずれも辛い選択とならざるをえなくなっているのです。

 私は以前から、連盟・協会幹部には直接に言ってきましたが、そもそも「政権党一党支持」という姿勢そのものがおかしいのです。自分たちの職能団体として実行して欲しい政策を提示して、政党側に踏み絵を踏ませることが大事です。より政策に理解のある政党に約束をつきつけた上で、組織を上げて支持するべきでしょう。それがマニフェスト選挙における正しい政党との付き合い方です。

 無条件の一党支持なんて、政界の常識から言えばありえないことです。支持される政党側からすれば、白紙委任状を下さるのと同じですから、こんなに便利で、楽な団体はありません。看護連盟・協会は「圧力をかけられている圧力団体」と私は以前から問題提起をしてきましたが、結局、連盟の体質は変わらないままでした。ですから、今頃、政権交代という初めての事態にどう対応していいか、混迷をきわめているのです。

 もっと言えば、組織の代表を全国を対象にした参議院比例代表候補にすること自体、検討し直すべきかもしれません。労多くして実り少なしという気がしてならないのです。組織から代表が出ているからと言って、組織の声が反映されるわけではありません。看護連盟から当選した議員が看護界のために発言しても、国会の中では当然視されるだけであって、政治的な力にはなりません。

 それよりも、多くの看護系議員を作ることの方がよほど政治力を発揮できるに違いありません。全国を対象にした候補でなければ、与野党にまたがって政治家が誕生してもなんの問題もないでしょう。自民党にも、民主党にも看護に理解を示す議員がちらばっている状況の方が、よほど影響力は大きくなるはずです。たかがいさんほどの候補なら、いい選挙区を選んで出せばどの政党であっても絶対に当選します。今回の悩ましい事態を受けて、看護界も大きくチェンジするべきではないかかと私は思うのです。

 さて、私事ですが、9月をもってフジテレビを退社し、国際医療福祉大学大学院教授、ならびに医療福祉チャンネル774(スカパー)を制作している(株)医療福祉総合研究所の副社長に就任することになりました。これまで以上に、医療看護問題を自らのライフワークと位置付け、具体的なアクションを伴った活動を展開していきますので、よろしくお願いいたします。(以上)





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