第25回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第25回 〜看護界における政治の現実とは?〜

 参議院選挙は自民党の大惨敗、民主党の大躍進、与野党逆転という衝撃的な結果となりました。年金記録問題、政治と金、閣僚の問題発言などが国民の怒りを爆発させ、安倍自民党は最後までその流れを変えることができませんでした。ところで、看護界にとっても今回の選挙は衝撃的な結果であったことをみなさんはご存知でしょうか?日本看護連盟が組織を挙げて推薦した自民党比例代表候補の松原まなみさんが落選したのです。看護連盟にとっては初めて経験する屈辱ではないでしょうか?

 民主党からも前の日本看護協会常任理事だった山崎麻耶さんが比例代表候補として出馬していました。しかし、あれだけの民主党の追い風にも関わらず落選、大惨敗でした。看護系候補がいずれも弾き飛ばされてしまったのです。ただ、連盟にとっては山崎さんの出馬は誤算だったようで、当初から強い不快感を示していました。看護票が分散してしまうことを恐れたのです。しかし、山崎さんの獲得票はわずか2万7500票でしたから、松原さんの16万7500票と足しても、自民党の当選圏内の20万票には及びませんでした。

 だからと言って、看護界が世論から背を向けられたと考えるのは間違いです。日本医師会・連盟が推薦するベテラン議員の武見敬三さんも落選でした。つまり、今回の選挙では組織・団体推薦候補は軒並み、苦戦したのであって、看護協会・連盟だけの話ではありません。しかし、私はこの問題は軽く見るべきではないと思います。今回の経験を踏まえて看護連盟は根本的に政治との関わり方を見直すべきだと私は考えています。

 この点について私はずっと以前から指摘していました。日本看護協会は政治活動に関われないために、日本看護連盟という別組織を作っています。看護連盟が最も力を注いでいることは自らの推薦議員を国会に送り出すことです。これまでは元環境庁長官の清水嘉与子さんと、前法務大臣の参議院議員、南野(のおの)知恵子さんの二人がいましたが、今回、清水さんから松原さんへのバトンタッチに失敗したことから、一人となってしまいました。

 実は「連盟推薦議員は必要ない」というのが私が長い間、看護協会・連盟の幹部のみなさんに言い続けてきたことです。それは「労多くして実り少なし」と思うからです。私が看護問題に入るきっかけとなったのは准看護師問題でした。今から16年前のことです。「准看制度廃止」というのが日本看護協会の主張でした。それは「准看制度は絶対に必要だ」とする日本医師会の主張と真っ向から反対のものでした。

 この主張を実現させるためには、日本医師会と全面戦争とならざるをえません。現にこの問題の矛盾を感じて、看護協会の主張に同調した私はテレビの番組やオピニオン誌を通じて、日本医師会と激しい論争を繰り返しました。医師会から見れば、当時の私は看護協会の代理人のように見えていたかもしれません。しかし、あくまで患者の立場に立った看護師のあり方を考えた時、私は看護協会の言い分の方が正しいと確信していたのです。

 「准看制度の廃止より准看教育の廃止を」と提言したのも私です。そのほうが現実的解決策だと思ったからです。准看制度廃止は絶対に認められないと強硬な日本医師会も、看護教育の改革なら歩み寄る可能性があると思ったからです。その後、日本看護協会もそのように看板の架け替えをしました。そして、日本医師会もこれまでの頑な姿勢を改めたことから、国の検討会でも准看護教育停止の報告書を取りまとめることができました。後は、国会で保助看法改正法案が通ればすべては解決するところまでこぎつけたのです。

 ところがここから報告書取りまとめに賛成していたはずの日本医師会がいきなり先祖返りを始めました。積み上げてきたすべての合意をいきなり白紙撤回し、「准看制度はあくまで存続すべし」と主張し始めたのです。それはあまりにも筋の通らない横暴でした。しかし、それで改革の動きは完全に消滅してしまいました。彼らが政治力を駆使して、主だった政治家を抑えてしまったからです。

 看護界のベテランなら誰しも知っているこの一連のプロセスを政治的にしっかりと検証してみるべきだと私は思うのです。結論から言えば、看護界推薦議員は全くの無力でした。それは彼女たちが無能だったわけではありません。当然、阻止すべく努力はしたでしょうが、力を発揮しようにもできないようになっていたのですから仕方ありません。彼女たちの責任ではありません。

 看護連盟はこれまで一貫して自民党の一党支持の方針を貫いてきました。連盟がどの党を支持しようが、私にはとやかく言う権利はありません。しかし、無条件で一党支持を決めるのは、もったいないことだなと常々思っていました。もし、私がその立場だったら、たとえ自民党一党支持を決めるとしても、絶対に自分たちの主張を認めることを条件として迫っただろうと思います。たとえば、「准看教育の廃止」が看護協会の主張なのですから、この政策を実現することを条件に自民党支持を決めるでしょう。それは何も特別なことではなく、団体としては当然のことなのではないでしょうか?

 ところが、看護連盟がやっていたことは無条件支持ならまだしも、逆に自民党の方から党員集めのノルマを課せられるなど、推薦を受けるための条件を突きつけられていたのです。政治的に言えば、看護連盟もいわゆる圧力団体になるわけですが、政党に圧力をかけるのではなく、圧力をかけられているという珍しい団体でした。

 自民党からすれば当時は日本医師連盟の支持も取り付けていたわけですから、もともと日本看護連盟の言い分だけを黙って聞ける状況ではなかったでしょう。それなのに無条件一党支持を決めたということは、自民党からすれば看護連盟・協会が准看教育廃止問題を諦めたと見られても仕方ありません。看護連盟は自民党にとってこれほどお手軽で便利な団体はなかったに違いありません。要求もしないで、言うことだけはちゃんと聞いてくれるのですから。

 日本看護協会・連盟に比べると、日本医師会・連盟は政治との付き合い方がはるかに上手でした。確かに医師会にも団体推薦の国会議員はいましたが、彼らが日本医師会の意向を政策に反映させるために、大きなチカラを発揮したわけではありません。団体の代表として国会に送り込まれた人は、当然のごとく、周りからもそういう眼で見られています。看護系国会議員がいくら正論を吐いても、どうせ看護界の利益を守るために発言・行動しているんだろうと見られるのがオチなのです。

 日本医師会の政治力がパワフルだったのは、一つ一つの選挙区で、地元医師会が自分たちの息のかかった政治家の面倒をしっかりとみていたからです。政治家は選挙落ちればただの人とよく言いますが、選挙を支えてくれた人を何よりも大事にするものです。日本看護連盟が政治家への影響力を高めるのにもっともいい方法は、選挙の時に各選挙区で、連盟挙げて支援してやることです。

 その支援の際に一筆、取ることが大事です。たとえば「准看教育廃止に賛成するなら支援する」と約束させるのです。候補者は喉から手が出るほど欲しい票に直結する話ですから、飛びつくに違いありません。それがいざという時に、政治力となるのです。そういう議員を何人生み出すことができるかが本当の勝負なのです。このやり方では、看護界の大応援団の政治家を同時に100人でも200人でも生み出すことができます。看護連盟代表推薦議員一人とどちらが効果的か、考えてみれば誰でも分かるはずと私は思うのです。

 こんな当たり前のことを、私は何度も実際に看護連盟・協会の幹部に話ししてきましたが、誰も実践しませんでした。団体推薦議員を送り出している以上、その人を推すことしかできないと言うのです。それでは、推薦議員が人質のようになってしまい、本来の主張が実現できない仕組みを自ら作り上げてしまっていたということです。政治的にはきわめて稚拙な戦略だったと言わざるをえません。

 今回の参議院選挙の結果は、劇的なカタチで看護連盟・協会に発想の転換の必要性を示したのではなかったでしょうか。もう、連盟推薦議員などは止めて、逆に看護に理解を示す看護シンパ議員を全国各地にどんどん作っていくべきです。看護界が政治の現実を見据えて生まれ変わっていくことを、私は外野応援団として今こそ注目していきたいと思っています。





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