第36回【認知症予防における医師】黒岩祐治(神奈川県知事)プレミアムインタビュー

黒岩祐治のプレミアムインタビュー

第36回

認知症予防における医師

黒岩:認知症予防における医師に求められる役割はどんなところにありますか。

小山:古代の医学者は人間が生きていくうえで避けることのできない要素を、光と空気、飲食、運動と休息、睡眠と覚醒、排泄、心の動きに分類しました。これらは「6つの自然のままに放置しないこと、six non-natural」です。健康を維持するために、個人が頭を使ってこれらを上手に操作しようと提唱したんですね。この考え方を浸透させていけば、医療費を削減できますし、医師も少なくてすむかもしれません。

黒岩:医師が認知症の患者さんに実際にやっていることと言えば、薬を出すぐらいではないですか。

小山:患者さんときちんと向き合うために、認知症のパーソン・センタード・ケアを学び、薬を上手に使ってケアしている医師もいますよ。しかしながら、そういう医師が医師対象の講演を行っても、なかなか受け入れてもらえないようです。「あなたが診ている患者さんは症状が軽いだけなんじゃないの」などと言われるそうですが、しっかりとケアしているからこそ、軽い症状になっているだけなんですよね。

最先端医療の時代の医師と看護師

黒岩:神奈川県では超高齢社会という課題を解決するために、「未病を治す」と「最先端医療や最新技術の追求」の2つのアプローチを融合させて健康寿命を延ばしていこうとしています。iPS細胞に代表されるように、日本には世界をリードする基礎研究が多くありますが、これを革新的な医療として実用化し、産業として育てます。そのために京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区とさがみロボット産業特区、また神奈川県全域が認められた国家戦略特区の3つの特区を活用していきます。日常生活の現場でさまざまなセンサーで未病状態をチェックし、病気にならなくする。病気になって病院に行ってもほとんどの診断は機械で行なう。遺伝子情報も含め、あらゆるデータを解析する。それに基づき最先端の治療法や論文を検索し、ベストな治療法を選択できる。最適な薬も検索できますから、あとは飲むだけ。手術のときは医師が出てきますが、ほとんどのプロセスに医師は必要でなくなる。そんなロボット病院が実現するかもしれません。しかし、そういう時代になって、医師は本当にいらないのかと言うといらないはずはない。では、どんな医師が必要なのか。それこそ、これからの医師に最も求められる資質ですね。例えば、すべての専門知識を理解した上で患者さんの手を握ってくれたり、「頑張りましょう」と言ってくれたり、患者さんの思いを受け止めてくれたりして、それだけで患者さんの免疫力が上がるような医師です。したがって、今後はそういう医師を育てていく教育が必要です。医は仁術という原点に戻っていくでしょうね。そして、その時代のフロントランナーは看護師です。医師がいて、医師のお手伝いとしての看護師がいてという世界ではありません。未病を治すのが看護師の仕事です。

小山:これからはそういう視点を持った看護師の養成が必要ですね。それには保健師教育も重要だと考えています。

お互いへのメッセージ

黒岩:小山先生は認知症などの老年看護学がご専門ですから、専門的な立場から認知症に関わっている看護師さんをご存じでしょう。認知症の患者さんを抱えて、どうしていいか分からないご家族は多いので、そういった看護師さんがご家族に対してしっかりと向き合うことに期待したいです。

小山:認知症看護や老年看護を志向している老人看護専門看護師もいますし、認知症看護認定看護師もいます。そういった専門性を持つ看護師が増えて活躍してほしいですね。また、認知症の患者さんのご家族と接するのは診療所などのプライマリケアの外来が多いのですが、外来看護師は認知症対応の看護のあり方を深く学ばないといけません。ご家族に話を伺うと、「看護師さんだから分かってくれるだろう、きちんと接してくれるだろう」と期待しているのにも関わらず、邪険にされたり、来てほしくないという対応をされるというケースがまだあります。私たちも基礎教育の中で頑張っていますが、限られた時間ですので、難しいですね。これからは卒後教育の中に必ず認知症看護を入れるようにするなど、ご家族に直接、接する看護師が認知症の患者さんに対して適切なケアを行えるのだということを示していかなくてはいけないでしょう。

黒岩:私自身、今日は多くの発見がありました。認知症についての理解をより広めていくことが大事ですね。ありがとうございました。

小山:ありがとうございました。神奈川県の保健福祉計画も拝見しましたが、「未病を治す」という言葉はとても印象に残りました。カタカナの政策でないのがいいですね。私達、医療従事者も変わらなくてはいけないことを実感しました。

プロフィール

昭和55年 3月 早稲田大学政経学部卒業
昭和55年 4月 (株)フジテレビジョン入社
平成21年 9月 同退社
平成21年10月 国際医療福祉大学大学院教授
平成23年 3月 同退職
平成23年 4月 神奈川県知事に就任

フジテレビジョンでは3年間の営業部勤務を経て報道記者となり、政治部、社会部、さらに番組ディレクターを経て、昭和63年から「FNNスーパータイム」キャスターに就任する。その後、日曜朝の「報道2001」キャスターを5年間、務めた後、平成9年4月よりワシントンに駐在する。
平成11年から再び「(新)報道2001」キャスターに復帰する。自ら企画、取材、編集まで手がけた救急医療キャンペーン(平成元年~平成3年)が救急救命士誕生に結びつき、第16回放送文化基金賞、平成2年度民間放送連盟賞を受賞する。
その他、人気ドキュメンタリーシリーズの「感動の看護婦最前線」、「奇跡の生還者」のプロデュースキャスターを務める。「感動の看護婦最前線」も平成5年度と14年度の2度にわたって民間放送連盟賞を受賞する。さらに、日野原重明氏原案のミュージカル「葉っぱのフレディ」のプロデュースも手がける。
平成21年9月、キャスター生活21年半、「(新)報道2001」15年あまりの歴史に幕を閉じ、フジテレビジョンを退社する。国際医療福祉大学大学院教授に転身するが、神奈川県知事選立候補のため、辞職する。
平成23年4月23日に正式に神奈川県知事に就任し、「いのち輝くマグネット神奈川」の実現に向けて全力で取り組んでいる。

プロフィール

1955年に茨城で生まれる。1978年に千葉大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、北里大学病院一般外科病棟に勤務する。1981年に神奈川県立衛生短期大学(現 神奈川県立保健福祉大学)の助手として着任し、講師に就任する。1992年に南大和老人保健施設に非常勤勤務をする。1994年に東京大学大学院医学系研究科(保健学専攻)の修士課程を修了する。1995年に横浜市立大学看護短期大学部助教授に就任する。2002年に東海大学健康科学部看護学科助教授に就任する。2008年に大和市社会福祉協議会デイサービス、高齢者グループホーム オリーブの家に非常勤勤務をする。2009年に常磐大学大学院人間科学研究科博士課程を修了する。2010年に北里大学看護学部教授に就任する。専門は生涯発達看護学。日本早期認知症学会理事、日本運動器看護学会理事、最後までよい人生を送る会;相模原会員など。

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