第4回【看護教育】黒岩祐治(神奈川県知事)プレミアムインタビュー

黒岩祐治のプレミアムインタビュー

第4回 【看護教育】

【看護教育の見直しを】

平澤:今日は知事にお見せしたいものがあるんです。このパンフレットなんですが、ナースセンター事業として、神奈川県下の小学校に全校配布することになりました。職業教育の中で看護師を取り上げていただく試みです。教育委員会の方にもご助言をいただき、ルビを振ったり、子どもたちに読みやすいサイズにするなど、改良を加えていきました。教育委員会でも職業教育に使いたいという声が上がっているんですよ。

黒岩:面白いですね。形やイラストがかわいらしいし、よくできているじゃないですか。

平澤:高校生向けのパンフレットもあります。若いデザイナーさんにレイアウトを考えていただき、看護師になるためのコースを分かりやすく紹介しています。小学生向けよりは学びのある内容に仕上げました。

黒岩:「先輩からの声」では前向きな意見が載っているし、いいですね。でも、准看護師になるためのコースを載せているのは微妙な感じです(笑)。

平澤:なるべく目立たせないようにはしているんですけどね(笑)。最初から准看護師を目指すことがないように、あくまでも途中のコースとして載せています。

黒岩:しかし、改めて思うのは看護教育の複雑さですよ。あまりにコースがありすぎて、説明自体が難しい。この問題はずっと置き去りにされてきましたね。

平澤:どうして、こんなにコースがあるのでしょう。これはGHQが撤収してからずっと存在している問題ですね。これでは「看護師になりたい」と相談してくる子どもたちが理解できないままになってしまいます。准看護師に関しては、ある学校の調査では、看護師を目指す人の3分の1が働きながら准看護師の資格を取るための勉強をしているのですが、そのうちの8割が看護師を目指したいと言っているんです。

黒岩:では、2割は准看護師のままでいいと思っているんですね。

平澤:学力の問題もありますし、「看護師を目指すのは難しいから」と諦め、「とりあえず入れるところを」と准看護師の学校を選択する人もいます。

【新人看護師の早期離職を防ぐには】

黒岩:ところで、神奈川県では看護教育検討会を立ち上げ、平澤会長にもいらしていただいていますが、いかがですか。

平澤:先日、第1回の「看護職教育のあり方検討会」を開催しましたが、知事にもおいでいただき、皆さんがそれぞれの立場で話をして、皆がこれでいいとは思わないという考えを持っていることを確認できた意味で、いい会でした。

黒岩:神奈川県では「医療のグランドデザイン策定プロジェクトチーム」を発足させ、先日、最初の答申をいただきましたが、その中で看護師の人材確保も議題に上っています。神奈川県は人口あたりの看護職員数が全国で最下位です。そこで、看護教育そのものに目を付けました。看護師資格を取って、現場に配属された看護師が1年以内に職を離れてしまうのはリアリティショックが要因の一つだと言われています。新人看護師が学校と現場のギャップに悩んで辞めてしまい、結果として看護師不足を招いているという問題ですが、我々、患者側の声からすれば「簡単に辞めるような看護師を送り出してくるなよ」ということなんですね。看護学校には早期に辞めさせないような看護師教育をお願いしたいです。プロジェクトチームには、臨床の現場で役立つような教育、看護とは何なのかというような根本的な内容を含む教育について、検討してもらっているところです。

平澤:統合教育の重要性については私どもも認識しています。以前は準夜勤や夜勤の実習が多かったのですが、最近はなくなっていました。しかし、平成21年、ようやくカリキュラムが改正になり、夜の実習も始まりました。神奈川県内の9割の看護学校で行っています。夜は患者のケアのしかたが違いますので、リアリティショックが起きやすいんですね。夜勤に不安を持つ新人看護師も少なくないので、実態に沿った実習ができるようになったのはいいことです。今後は教員のシフトも考慮する必要がありますし、人数も確保しないといけません。何よりも教員の質を向上させていくことも求められています。

黒岩:神奈川県独自で、どのくらいやれそうですか。

平澤:看護協会に入っている病院はかなり改善してきましたし、新人教育に関しても行政と一緒になって、看護協会も病院に情報提供しています。また、行政は看護部長会を通して病院にアプローチをかけていますし、神奈川県看護師等養成実習病院連絡協議会には病院協会、看護協会も入って、活動しています。

黒岩:私は「看護師になるなら神奈川へ」となることを目指しています。これこそがマグネットですよ。そういうマグネットになる学校を増やしていきながら、人口あたりの看護師数も増えればと期待しています。しかし、看護師が少ない中で現場はよくやっていますね。

平澤:よく頑張っていると思いますよ。神奈川で仕事をしていた看護師がご主人の転勤などで他県に行ったら、「神奈川県のあの病院にいたの」などと高く評価されて、新しい職場にすっと入れるんです。それだけ神奈川県の看護師はブランドなんだと思います。

プロフィール

昭和55年 3月 早稲田大学政経学部卒業
昭和55年 4月 (株)フジテレビジョン入社
平成21年 9月 同退社
平成21年10月 国際医療福祉大学大学院教授
平成23年 3月 同退職
平成23年 4月 神奈川県知事に就任

フジテレビジョンでは3年間の営業部勤務を経て報道記者となり、政治部、社会部、さらに番組ディレクターを経て、昭和63年から「FNNスーパータイム」キャスターに就任する。その後、日曜朝の「報道2001」キャスターを5年間、務めた後、平成9年4月よりワシントンに駐在する。
平成11年から再び「(新)報道2001」キャスターに復帰する。自ら企画、取材、編集まで手がけた救急医療キャンペーン(平成元年~平成3年)が救急救命士誕生に結びつき、第16回放送文化基金賞、平成2年度民間放送連盟賞を受賞する。
その他、人気ドキュメンタリーシリーズの「感動の看護婦最前線」、「奇跡の生還者」のプロデュースキャスターを務める。「感動の看護婦最前線」も平成5年度と14年度の2度にわたって民間放送連盟賞を受賞する。さらに、日野原重明氏原案のミュージカル「葉っぱのフレディ」のプロデュースも手がける。
平成21年9月、キャスター生活21年半、「(新)報道2001」15年あまりの歴史に幕を閉じ、フジテレビジョンを退社する。国際医療福祉大学大学院教授に転身するが、神奈川県知事選立候補のため、辞職する。
平成23年4月23日に正式に神奈川県知事に就任し、「いのち輝くマグネット神奈川」の実現に向けて全力で取り組んでいる。

プロフィール

社団法人神奈川県看護協会会長。
神奈川県出身。1967年に相模原看護専門学校を卒業後、神奈川県立公衆衛生看護学校に入学し、1968年に卒業後に保健師資格、養護教諭免許(一級)を得る。1968年に神奈川県に入職し、神奈川県立松田保健所に配属される。その後、神奈川県内の保健所、看護教育大学校、神奈川県庁衛生行政部門、市町村公衆衛生行政部門への派遣などを経験する。2006年3月に茅ヶ崎保健福祉事務所保健福祉部長の職を最後に神奈川県を退職する。2006年6月に社団法人神奈川県看護協会会長に就任する。

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