梅雨が明け、本格的な夏がやってきました。みなさん、いかがおすごしですか?
夏といえば海におでかけになる家族もおおいのではないでしょうか。今回は海にまつわる話をご紹介したいと思います。
せんだって、7月の半ば、私のクリニックには素敵な方が来てくださいました。フリーダイバーで水中写真家、現在ハワイのコナにセルフセラピーの宿泊型施設を運営しておられる菅原真樹さんをお招きしました。昨年に引き続き第二回目の講演会。参加していただいたのは私のクリニックにかかっておられるアトピー性皮膚炎の症状をもつ8家族で、みなさん症状の状態はひどいお子さんたちばかりです。
本論に入る前に、少し菅原真樹さんについてご紹介をさせてください。
女性向けのポータルサイトewomanに、真樹さんの対談記事が掲載されていましたので、そこからプロフィールをコピーさせていただきます。
菅原真樹 すがはら・まき フリーダイビングトレーナー・アプネアフォトグラファー
大阪芸術大学音楽学・声楽専攻科卒。ファイブスタークラス外航豪華客船「MS・OCEANIC GRACE」クルーズディレクター4年乗務後、ハワイ島コナ移住、1993年スクーバダイビングサービス「ラ グレイス ド コナ」設立、2004年12月約8,000坪の広大な森の中に、セルフセラピー・ユトリート施設「KALOKO HOUSE」を設立、オーナーとなる。日本フリーダイビングナショナルチーム監督、女優高樹沙耶パーソナルコーチを務め、世界選手権メダル獲得や日本新記録樹立を果たす。水中写真家として、セルビア&モンテネグロ・ベオグラード国際水中映像祭審査員特別賞受賞を始めとして数々の国際水中映像祭に出展、豪華客船「飛鳥」、神戸国際水中映像祭など多くの場所でフォトエキビションと講演活動を行っている。※プロフィールは対談公開時 (2005年1月)のものです。
ハワイ・コナに移住されて、今年で14年とのこと。現在はその年月の中で、ご自身のダイビングの経験から独自にセルフセラピーを編み出され、セラピーのための宿泊型施設を運営なさっています。また、現在ではハワイの先住民族からもその功績を認められ、積極的にハワイのカフナから伝承医療を継承されています。
(詳しい情報は真樹さんのホームページ→http://www.heisoku.com/をご覧ください)
そんな海の男・真樹さんとはひょんなことから交流が始まり、今年で2回目の公演会となりました。その飄々たる風体、力の抜けた自然なたたずまいは、彼に出会う人をその全存在で癒していく不思議な力をもっています。
今回の講演会では、海のもつ癒しの力について存分にお話をきかせていただきました。真樹さんの話には、彼が日々出会う様々な人々の癒しの物語がありました。例えば末期のガンを患い、西洋医学では手立てのないような患者さんが彼のもとを訪れ、彼の施設に滞在しながらセラピーを受ける…というよりも、「自分で自分を癒していく=セルフセラピー」にまつわる実話。真樹さん自身が海に潜って撮影したマンタや魚たちの泳ぐ姿。見ているだけで心と体のなにかが変わっていくようなゆたかな映像。どんな立場の人であっても彼はいつも同じように受け入れてくれます。子どもでも大人でも男でも女でも、彼にはわけ隔てがありません。
そして、彼は講演の後半で「ハワイの海水」と「温泉水」を半分ずつまぜた元気いっぱいの水でトリートメントの実技をみせてくれました。クリニックの患者さんである幼い女の子がモデルになってくれたのですが、彼のあたたかな手とゆったりとした空気の中に包まれて気持ちよく眠ってしまいそうなほどでした!
そのトリートメント実技の際、彼が説明してくれた言葉に興味深い発見につながる言葉があったので、ご紹介したいと思います。それは、彼がハワイの海水の入ったトリートメント用の水で手を湿らせていたときに聞いた言葉です。
「これはね、ハワイのお水だよ。イルカさんが泳いでいたお水だよ。」
私は一瞬、がっかりに似た気分を感じました。なぜなら、たしかに、その水はハワイでイルカが泳いでくれているお水かもしれないけれど、ここは大都市東京の下町亀戸です。どうしたってそんな水を日常的に使うことは出来ません。この言葉はかえって参加者のお母さん方を悲しい気分にさせてしまうのではないか…そんな風に思いました。しかし、そんな思いが頭の中をめぐったとき、ふっと、あることに気がついたのです。
「イルカの泳ぐ海の水は、めぐりめぐって私たちの体の中にあるのかもしれない…。ハワイのイルカが愛する海は、私たち人間を作る水と同じ。そうか、私たちも海だったんだ。」
このごろ時折、エコ関連の広告で私たちの体をつくるのは海や川と同じ水というような内容を聞くことがありますが、それまでは特にリアルな意味を持つ言葉として私には響いてきませんでした。ところが、そのとき、真樹さんの言葉に触発された私の頭は、フル回転して大きな答えに行き着いたのです。
「私たちの命は、あの、ハワイの海と同じなんだ」
人間は排泄をしたり、汗をかいたりして水分を失います。その水分の行く先を想像したことがあったでしょうか? そうです、その水分は流れ流れて海へたどり着くのです。地球上の海はひとつにつながっているのです。ないしは、私たちの体から発散された水分は蒸発して雲になり、ハワイ上空に雨を降らせているのです。ハワイのイルカの海水は他の海へとも流れ混じり、そこで捕られた魚を私たちは食べているかもしれません。私たちは、どんなときでも、あのイルカと同じなのです。そして、となりに座る赤の他人の患者さんの家族だって、同じイルカの水をシェアしているのです。
自分を取り巻くすべてのものが私自身となんら変わりのないものだと気がついたその瞬間、あまりの衝撃に心が震えました。
これまで何度も下町亀戸で地域に密着した医療を提供したいと気持ちをお伝えしてきた私ですが、どうあがいたところで、この街をハワイのようにすることはできません。そんな厳しい条件の下でいかに前向きな医療ができるのか、それが常に私のテーマです。地域でその家族にあった診療を行う、そんな思いの中で「イルカは私。イルカと私を隔てるものは何もない」という気づきは、医療技術を扱う生身の私を支える大きな力となってくれる予感がしました。
薬は確かに効きますが、同じくらいに大切なのは、見えない薬です。慢性症状がひどく長くなると、子どもたちは命に対して心を閉じてしまうことがあります。そんなときに効く、一番の薬、「こころの薬」を手に入れたような気がします。
社会からの孤立感、近しい家族との分離感、私たちは便利な時代に非常に不便な心の生活を送っています。けれど、そんなとき、思い出してください。イルカとあなたが同じように、道行く赤の他人とあなたも、また、なんら変わることのない存在です。同じ地球の恵みをシェアする生き物なのです。
いかがでしょう? こういった発見を、小児科を志す後輩諸君に伝えられればうれしく思います。医師と患者さん、子どもと親、大人と子ども、みんな同じ水をシェアしていたのです。こんな風な発想は、どんなにひどい状態のお子さんだって、なにかしらの良い方法が残っているはず…そんな気にさせてくれはしないでしょうか?
子どもや女性は自然のリズムに近い状態で生きています。男性はそれに比べれば、自然とリンクして生きるのが下手なのではないかと思います。男に生まれた私には患者さんから教えていただくことが実にたくさんあります。患者さんたちからの現実的で有機的な言葉や情報を大事にして、深みのある診療を行っていきたいと改めて思うこの頃です。
今後も、薬だけに頼らない統合医療的な知恵を探るために、このようなイベントを定期開催していきたいと思います。WEB上での告知も考えていますので、お楽しみに。
(五の橋キッズクリニックHP→http://www.gonohashi-kids.or.jp/)
うぅ~ん、そう思うと、小児科ってやめられないですよね
猛暑の予感の今夏です。くれぐれも体調には気をつけて、おたがいがんばりましょう!
また、来月お目にかかります。