第14回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
<プロフィール>

 
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第14回 「レモン」つながり 多動の子どもたちのこと雑記

 私のクリニックに念願の「ニモ」がやってきました!

 プライベートでの楽しみにダイビングを始めて3年が経ちますが、海の中で出会う色とりどりの魚やコーラルを、かねがね子どもたちにも見せてあげたいと思っていました。熱帯魚を飼うといえども、海水魚は飼育が難しいというのでなかなか思い切れずにいましたが、ある方のご紹介で、こまめなメンテナンスまでお願いできる魚を愛する業者さんと知りあい、やっと念願のサンゴ礁の水槽がクリニックの待合室にお目みえしました。

 水槽は、スリッパの棚のすぐ横にあり、玄関の脇にあたります。
子どもたちは水槽にへばりつき、時折水槽のガラス面をコンコンと叩いて魚を驚かせては、お母さんにたしなめられ、また魚たちを観察しています。

 いうまでもありませんが、まず最初に大喜びしたのは私自身でした。
 ダイビングで触れ合う魚たちをクリニックに招待できた喜びと、一日二回のエサやりのワクワクする気持ちは、子ども時代に戻ったような気分です。

 なかでも、私をはじめスタッフの興味を惹きつけてやまない一匹がいます。それは黄色い色の比較的大きい魚で、その名もレモンピールという、エンゼル(フィッシュ?)の仲間です。
http://allabout.co.jp/pet/aquarium/closeup/CU20031016A/index2.htm
(上のリンクでは、2枚目の紹介に登場しています。)

 なぜ、このレモンピール=レモン皮君が、みなの注目を浴びるのか?
 ……それは、彼の行動にありました。この目にも鮮やかな黄色い熱帯魚は体調が5センチくらいで、当院の水槽内ではもっとも大きな種類です。なのに、この黄色君は、なぜか岩の影にじっとしていて、なかなか動きません。たまに泳いだかと思うと、結局は岩の合間をぬって恥ずかしそうにモジモジしています。
 大きな図体なのに、いじらしくてかわいい!?というのがスタッフの注目の理由なのです。

 しかも実はちょっと困ったことに、スタッフたちはそのいじらしさ(?)を私にたとえて楽しんでいるようです。自分でいじらしさというのもおかしいのですが、私は医師という職業人としてのフィーリィングには、ある程度の自信をもっているにもかかわらず、プライベートとなるとシャイな横顔をもっている人間です。それをレモンピール君と似ているとスタッフがからかうのです。しかし、たしかに、私も時折、水槽にへばりついてレモン君をみていると、なんだか他人とは思えぬ行動をするではありませんか!

 1日2回のえさやりの時には岩陰から出てきて、餌をついばみますが、それが終わると再び岩陰にこっそりと隠れて、じっとしています。姿を現せば大きくて鮮やかでとても目立つのですが、用心深く(?)その姿をなかなか現してくれません。まるで、その横顔は「一緒に遊ぼうよ!」と家の外から大きな声で誘い出してくれる友達をまっている……子どものころの私のようではないですか。

 それにひきかえ、ほかの魚たちニモ(カクレクマノミ)やドリー(青い魚)はスイスイと元気よく泳ぎまわっています。体色の個性的なムラサキの魚やムラサキと黄色のコンビ色の魚も自信満々にスイスイと右に左に泳いでいます。

 診療のあとにぼんやりとこの魚たちを見ていたら、まるで子どもの世界そのもの、いえ、大人の世界も大して変わらないなぁなんて思うのでした。

 さて、レモンピールから思いをはせて、最近お世話になっているハーブに詳しい先生にレモンピールの話をしてみたら、面白い言葉が返ってきました。

 レモンピールとは、ハーブの世界ではいわゆるレモンの皮で、精油成分がたくさん含まれている部分なのだそうです。レモンを絞ったときの爽やかな香りは、果汁そのものからよりも、皮に存在している精油のたまっている部分を絞ることで放出されるのだそうです。
 そして、レモンの枝にはトゲがあり、バラのようなのだそうです。それに、レモンは根から周囲の植物を弱らせる成分を出すらしく、庭に植えるときには注意が必要とのことでした。

 この点に関して、そのハーブに詳しい先生は、ついで面白いことを言っていました。
 「……レモンという、おいしそうな上に見た目あざやかで、薬効にも優れた果実を軽い気持ちでもぎとろうとすると、枝のトゲがちくりと刺さる。また、その果実を得ようとして安易な気持ちで植えつければ、周囲の植物を枯らす。レモンはそんな手のかかる植物だけれど、そのトゲも、その毒も、すべてはその大事な果実を守るためにあり、その果実を本当に必要とする人のもとへと届けるための、必要最低限のハードルだ。この果実(自分自身)のすばらしさを本当に理解してくれる人にだけ、手にとってもらえるようにレモン自身が考え出したすばらしいテストですね」と。

 日々診療にあたっていると、いろんなタイプのお子さんや親御さんがいます。
最近ふえているのは、落ち着きのないといわれる多動のちびっ子たち。決して、先天的な異常ではありませんが、何かの理由でせわしなく動いています。その姿はまるで、本当に許されたお客しか店内に通さないヨーロッパの老舗ブランドショップのようです。同じブランドショップでも東京の出店では見られない、お客の靴をみただけで門前払いをしてしまうようなお店。そういうプライドある門戸の狭さを子どもたちに感じることがあります。

 自分たちを正しく理解してくれる大人、自分たちを本当によいと思ってくれる人、自分たちが心から興味をもてるもの、自分にふさわしい相手。そういったものにしか彼らは反応を示しません。それ以外に対しては、いつも、水槽をスイスイと泳ぎ続けるニモやドリーのように周囲のことなどどこ吹く風で、子どもたちなりに人生を満喫しています。

 ひょっとすると、社会が多動の子どもたちにヤイノヤイノとレッテルを貼るのは、周囲の大人がその子どもたちに受け入れてもらえないからなのかもしれません。子どもという生き物はとても柔軟で、大概の環境には自分をゆがめてまでも適応していきます。それが行き過ぎると病気というかたちで表出するのだと思うのですが、ひょっとすると、多動の子どもたちは適応した結果なのであり、その結果、大人たちは自分たちを受け入れてくれない究極の相手を生み出してしまったのかもしれません。

 もちろん、この話には答えはなく、私の想像の範囲でしかありませんが……。
レモンピールという色鮮やかで大きいけれどとってもシャイな海水魚クンから、植物のレモンに思いを馳せ、たどり着いた雑々たる思いです。

 残された夏休み、来院する子どもたちには待合室で気ままに泳ぎ回るニモやドリー、レモンピールを見て、のびのびと自分らしさをのばしていってくれたらいいなあと思います。もちろん、親になったばかりの新米ママ・パパにも同じメッセージです。
 小児科の病気も然り。病気ひとつ、風邪ひとつ、自分らしく病気になって、自分らしく回復して、そのひとつひとつが子どもたちの成長の上で勇気と、自分自身への心身への自信へとつながっていくような医療を提供していきたいなぁ……と思うのです。

 うぅーん、そう思うと……だから、小児科ってやめられないんですよね!

 なんだか爽やかなレモネードが飲みたくなってきましたね。私のクリニックの向かいの薬膳カレー屋さんでオリジナルのウコン漬けレモネードを一杯もらってくるとしましょう。これは疲労回復によく効きますよ。
 冬の寒さに負けないように、残暑を利用していまのうちにしっかり熱を体内に貯蓄しておきましょう!
 また、次回お目にかかります。





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