第11回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

スーパードクターエッセイ

水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
<プロフィール>

 
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第11回 「観察」の大切さ…赤ちゃんの見立てを通して

 すっかり夏の匂いがする季節になりました。半袖で過ごすことも増えました。
みなさん、いかがお過ごしですか?

 さて先日テレビをみていたら、赤ちゃんの持つ非常に高い能力を取り上げている番組がありました。その番組が、どういう実験をしていたかというと、ハイ ハイができる赤ちゃんを高い台にのせ、赤ちゃんの動きを観察するのです。その台は、横幅が3〜4メートルあるのですが、両端の1メートルぐらいをのぞくと、中間部分はまるで何も台がないようにみえてしまうような、透明なアクリル板で作られています。つまり、最初に赤ちゃんが座らされた場所は確固とした地 面(台)があるのですが、その先には足元が危険な感じを与えるように、透明な板で作られているのです。

 実験は、まず台の片端に赤ちゃんを座らせます。そして、自由にハイハイして回ってもらいます。そして、台の真ん中あたりの透明な部分を渡るか、渡らないか、赤ちゃんの反応をみるのです。
 実際に実験がなされてみると、驚くべき結果がでたのです。なんと5人中4人の赤ちゃんが、透明板の上をハイハイせずに、足元の確固たる台のきわでピタッ と止まったのです!一人の赤ちゃんだけは、天板の変化には目もくれず、ニコニコ顔で端から端まで渡りきってしまっていましたが…(笑)。
 
 続いて、台の設定は同じで、違うパターンの実験が行われました。最初の実験は、赤ちゃんだけの意志で動いてもらっていたのに対し、次の実験では、赤ちゃんの進行方向の先で、大好きなママに待っていてもらったのです。
 するとどうでしょう! ママがにっこり微笑んでこっちへおいで…と表情で訴えながら待っていると、その姿を見つけた赤ちゃんは、先の実験で「危険」と感じてピタッと止まっていた透明板の境もなんのその…ニコニコ笑って、ママの方へとハイハイしていったではありませんか!
 また、なお興味深いことには、ママが、怒ったこわーい顔をして、赤ちゃんの進行方向の先に立っていると、アラ不思議…赤ちゃんは、ママの怒った顔をみて、透明板のきわでピタッと静止するのです。
 そして、解説曰く、「人間の赤ちゃんは、とても早い段階から、表情を読み取る能力が発達している」のだそうです。
 
 私は、この実験で、とても面白いと思ったことがあります。「観察する」ということの奥深さと、「感覚情報と行動の連関性は、非常に主観的な理由で、いとも簡単に変化する」ということです。
 実験の説明をしていたら、ずいぶん長くなってしまいましたが、赤ちゃんを見るときのコツをお話したいと思って、この実験を紹介しました。

 人間のみならず、視覚をもつ動物に与えられた行動…「観察」。「観察」するということは、「触れる」「嗅ぐ」「聞く」と同じほどに重要な知覚行動です。人の第一印象は会った瞬間に決まるといわれています。
 まだ言葉を知らない赤ちゃんの状態を知るには、保護者であるお母さんからの説明を傾聴することと、同時に赤ちゃん自身への観察の二つしか手がかりはありま せん。西洋医学は分類の医学なので、同じような症状であっても、赤ちゃんの体内で悪さを働いているウィルスやバイ菌が何であるかで診断は違ってきます。そ の診断を下す際になによりも大事なのが、赤ちゃんを「観察」することなのです。
 
 小児科では、胸痛や頭痛を訴えることは滅多にありません。言葉での説明が上手くできない子どもたちを診るには、ぐったりしているか、わりあいと元気なの か、口の周りに吐いたものがついていないか、鼻はつまっていないか、肌の色艶はどうか…。そんなあたりまえの症状の中にヒントが隠れています。
赤ちゃんの中に答えをみようとすると、不思議とこれらの諸観察結果がまとまって、ひとつの診断結果へと繋がります。それをもとに検査をすると、やはり診断名と検査結果が一致することが多いものなのです。

 私達人間はすぐれた観察力をもっています。それを診断においてフル活用します。なかでも、赤ちゃんの見立てに、すぐに活用していただける点がたくさんありますので、いくつか紹介したいと思います。
 どこから紹介しましょう…。まずは、歯からいきましょうか。歯が生え始めてきたときに、歯は二本一緒に生えてきましたか?それとも一本ずつでしたか?一本ずつだったなら、体に左右のクセが付いていることが考えられます。左右のクセが強くなると、筋肉の緊張を引き起こし、全身の代謝を悪くして消化器も 圧迫しますから、おっぱいやミルクをあまり飲んでくれなかったり、飲んでくれても、もどしたりということが起こります。寝つきが悪い、寝起きが悪いなど も、左右のクセをとると格段に改善されます。

 左右のクセは、寝返り、ハイハイ、歩き始め、その後にもちょっとしたところに現れます。寝返りを打つときに得意な回転方向が決まっていませんか?もし そうなら、反対側を手伝ってあげましょう。ハイハイでは、真っ直ぐに進まずに、斜めに進みませんか? それは体の軸がずれると股関節の開きも左右差が出て、一方に偏って進んでしまうのです。偏っていってしまう側の股関節の動きが鈍くなっています。
 
 歩き始めると、やはり斜めに進んだり、もっと年齢が大きくなると、遠くから呼びかけてこちらに振り返る際に、軸にして回転する脚が決まっています。ある 程度のクセは人間みなが持っていますが、左右をおしなべて均等に使うというのが、体に疲労をためずに健やかに使い成長させるコツです。
また小さい赤ちゃんは、オムツ替えのときに脚の後ろをみてください。ムチムチした赤ちゃんの脚の裏には、筋がたくさん入っていますが、この筋の位置と本数が同じですか?しわがより深く、本数も多い側があれば、そちらとは反対側の脚の動きが鈍くなっています。

 他にも見立てはたくさんありますが、簡単に使える方法をもうひとつ。蒙古斑(モウコハン)を使った見方です。生まれたすぐはお尻にぽーんと大きく出てい る蒙古斑ですが、成長とともに小さくなっていくのが特徴です。しかし、成長とともに、蒙古斑が大きく、全身ともいえる広範囲に広がる場合があります。体が 冷たく、あまり調子の良いとはいえない赤ちゃんに見られることが多くあります。
 また、蒙古斑が新たに出現した位置を確認すると、その赤ちゃんの弱い臓器の側に出ていることがあります。東洋医学や中国医学でいう、いわゆる「ツボ」や 「経絡(ケイラク:ツボの繋がった道すじ)」の性質を参考にして、赤ちゃんの不調を読み解く手がかりにもなりますが、いずれにしても、1歳くらいまでの赤 ちゃんは神経の発達も未熟で、「ツボ」や「経絡」も不完全なので、だいたい臓器の位置と対応していると考えればよいでしょう。
 
 腎臓の弱い赤ちゃんは、腎臓の位置辺りに飛び石のように蒙古斑が出現するといった具合です(大人であっても、背中にシミやアザ、なんとなく黒ずんでいる ところは、内蔵や経絡の弱い部分と対応しています。参考にしてください!)。そして、その赤ちゃんの親御さんの顔や体も観察すると、よく似たところが対応 して弱っていたりします。これは、母児同病といって、親と子は、子どもの小さいうちは同じ症状に同時に支配されるという考え方です。もちろん、時期的な発 症のみならず、体質的な要素が大きいので、親の弱いところは子どもに出るというシンプルな理の表出でもあります。
 
 これらのちょっとした不調の兆しは、家庭において、体を使った遊び、ベビーマッサージ、赤ちゃん体操、その昔は小児按摩など、さまざまな方法で解消することができます。関西地方では小児按摩や小児鍼がまだ巷の治療院などに残っています。
 昨今、ベビーマッサージなど、自宅でできるケアに注目されているのもこういったことが理由にあるのです。私のクリニックでも、そういったものをクリニックの休診日に取り入れて、近いうちに実施していきたいと考えています。
 取り留めない感じになりましたが、今後も、すこしずつですが、こういった紹介をできればと思います。

 このエッセイをたのしみにしてくださっている親御さん方もぜひ、お子さんの体調管理に、「観察」を最大限に活用してください!!
私達医師は、家庭においてお子さんの不調を見分けることはできません。まず、側にいる親御さんの目が大事です。そして、来院された赤ちゃんの診察にあたる ときは、親御さんの「気持ち」と「目」と同じくらいの「観察」眼で赤ちゃんに接する。これが、小児科において、大事なことなのではないでしょうか。

 うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科ってやめられないんですよね!
 しばらく、気候の良い時期が続くといいですね。しかし、乾燥する時期でもあります。乾燥は万病の元。体調管理に気をつけて、お互い頑張りましょう。また、次回に。





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