第31回 助産所の現状
神奈川県の少子化対策
黒岩:こんにちは。はじめまして。本日はようこそいらっしゃいました。
島田:はじめまして。どうぞ宜しくお願いします。
黒岩:まずは神奈川県の少子化対策について、お話しします。神奈川県はいまだに人口が増えているのですが、0歳から14歳までの人口は減少しています。その年齢層の人口は2010年には119万人でしたが、2025年には94万人にまで減るだろうという予測もあります。少子化の進み方が顕著であると同時に、高齢化も進みが早いという現状なんですね。その中で女性の就労状況を見ますと、25歳から29歳までは一つのピークで、子育てが終わった45歳から49歳が次のピークになるという、いわゆるM字カーブの落ち込みが非常に大きいのも神奈川県の特徴です。
島田:女性が働きながら、子どもを育てることが難しいということですね。
黒岩:少子化対策は一つの政策で何とかなるものではなく、政策を総合的に展開しないといけないのが難しいですね。そこで、神奈川県では8月を「かながわ子ども・子育て支援月間」とし、「かながわ子ども・子育て支援大賞」の表彰などを行っています。これは子ども・子育て支援活動のモデルとなる実践的な活動を行い、地域の子どもや子育て家庭に対する貢献度が高いと認められる地域団体、企業、医療法人、商店街などを表彰するものです。また、「かながわ子育て応援パスポート」も発行しています。このパスポートは、妊娠中の方や子どものいる家庭からの登録を受け、携帯電話やパソコンなどを通じて神奈川県が発行した登録証です。これを協力事業者や店舗に提示することにより、割引や景品の提供などの各事業者が設定する優待サービスなどを受けることができます。
島田:色々な取り組みをなさっているんですね。
黒岩:横浜市が待機児童をゼロにしたというニュースがありましたが、神奈川県全体ではまだまだなので、この問題にも取り組んでいるところです。
神奈川県の周産期医療体制
黒岩:神奈川県の出生数は減少傾向にありますが、医療管理が必要な低出生体重児は増加しています。高齢出産の増加が影響しているとも考えられますが、この支援体制を強化しなくてはいけません。神奈川県内のNICU病床数は2012年10月1日現在で189床と、10年前よりは増加していますが、出生1万人あたりの病床数は24.3床です。国は出生1万人に対して25床から30床としていますので、この基準には未達なんですね。そこで、神奈川県は1985年に周産期救急医療システムを作り、基幹病院、中核病院、協力病院と機能別の受け入れを行っていますが、ハイリスク妊産婦や新生児への医療のさらなる充実を目指しています。
島田:私は日本助産師会の副会長を務めていますが、神奈川県の助産師会は活動が活発で、周産期医療協議会にも出席をいただいています。神奈川県は助産所からの搬送システムが整っている印象がありますね。ただ、神奈川県は東京都のベッドタウン的な面がありますから、キャリアがあって、年齢が高いお母様方が多い地域です。そのため、高齢の妊産婦さんにいかに対応し、産後ケアをいかに進めていくのかを考えていかなくてはいけません。仕事を続けながら、子どもを産める環境への一層の支援が必要な地域だと思います。
黒岩:その意味で、産婦人科の医師が地域の病院から大学へ引き上げるとなると、大変な事態となります。これまで顕在化しなかった問題ですし、これをサポートするためには抜本的な対策が必要ですね。
島田:東京都は日本赤十字社医療センターや愛育病院に分娩が集中化しています。一方で、神奈川県には年間何千件の規模で分娩を引き受けることができる病院が少ないですね。ある病院の産婦人科に勤務する医師が同じ大学の医局からの派遣であれば、医局の状況次第で医師数が左右されますので、東京よりも大学の影響を受けやすいのが問題でしょう。
助産所の現状
黒岩:助産所の現状はいかがですか。
島田:日本助産師会では2004年度からガイドラインを作ってきたのですが、このほど「助産業務ガイドライン2014」として改定を行いました。日本では自然な分娩を望む人が多いのですが、以前のような個人経営の助産所は安全の確保が大変です。今後の助産所の安全管理方針として、医師との更なる連携をはかり、チーム医療を行っているという意識を推進していくことを提案しています。助産所は妊産婦さんの希望を叶えるための一つの選択肢として、地域でケアできる施設であるべきですね。
黒岩:私はフジテレビ時代にドキュメンタリーシリーズ「感動の看護師最前線」の取材で助産所にも伺い、助産師さんの仕事ぶりを番組にしたことがありました。取材の中で、自然なお産と安全安心の確保といったせめぎ合いを目の当たりにしたことがあります。どこまで自然な形を追求できるのか、危険という状況になったときの判断はどうするのか、考えさせられましたね。難産の産婦さんが頑張っている一方で、助産師さんが「自分が取り上げたい」という感情をぐっと抑えて、危険だとして病院へ送ろうと判断を下したときには彼女のプロ意識を感じました。
島田:まさしく、そこなんですね。ガイドラインで強調しているのは産婦さんの満足も大事だけれど、安全を守るために気づくべきポイントです。これには産婦さんの状況を正確に把握するアセスメントの力や、サービスの実践力、助産師個人が持っている職業理念によるところが大きいですね。こうした能力のある助産師に助産所を開業してほしいです。
黒岩:そういった能力をどのように向上させるのですか。
島田:今後、日本看護協会の助産師のクリニカルラダー制定に呼応して、地域で働く助産師のラダーを検討していく予定です。実践能力の認定を職能全体で行っていこうというものです。
黒岩:今、新しく助産所を開業される助産師さんの年齢はおいくつぐらいですか。
島田:ある程度、病院で経験を積み、中堅クラス以上にならないと助産所で責任が取れませんから、40代以上ですね。ただ、スタートがあまり遅すぎると、助産所が軌道に乗ってからの時間が短くなってしまいますので、タイミングが難しいです。
黒岩:そうなんですね。
島田:はい。全国都道府県助産師会では、「子育て・女性健康支援センター」を設置しています。この中で、電話相談を受けたり、地域で性教育を行うなど、助産師の活動は広がっています。また、これからは求めに応じて更なる女性や家族への支援を行う状況になるでしょう。
黒岩:院内助産所もありますね。
島田:助産師になったからといって助産所をすぐに開業できるわけではありませんから、院内助産の経験は大切です。そこで、ガイドラインも「助産所業務ガイドライン」から「助産業務ガイドライン」へと、院内助産にも適用できるものに改定しました。院内助産の経験を積んだあとで、状況が整ったら開業するというのが本来の理想的な姿ではないかと思っています。
黒岩知事プロフィール
昭和55年 3月 早稲田大学政経学部卒業
昭和55年 4月 (株)フジテレビジョン入社
平成21年 9月 同退社
平成21年10月 国際医療福祉大学大学院教授
平成23年 3月 同退職
平成23年 4月 神奈川県知事に就任
フジテレビジョンでは3年間の営業部勤務を経て報道記者となり、政治部、社会部、さらに番組ディレクターを経て、昭和63年から「FNNスーパータイム」キャスターに就任する。その後、日曜朝の「報道2001」キャスターを5年間、務めた後、平成9年4月よりワシントンに駐在する。
平成11年から再び「(新)報道2001」キャスターに復帰する。自ら企画、取材、編集まで手がけた救急医療キャンペーン(平成元年~平成3年)が救急救命士誕生に結びつき、第16回放送文化基金賞、平成2年度民間放送連盟賞を受賞する。
その他、人気ドキュメンタリーシリーズの「感動の看護婦最前線」、「奇跡の生還者」のプロデュースキャスターを務める。「感動の看護婦最前線」も平成5年度と14年度の2度にわたって民間放送連盟賞を受賞する。さらに、日野原重明氏原案のミュージカル「葉っぱのフレディ」のプロデュースも手がける。
平成21年9月、キャスター生活21年半、「(新)報道2001」15年あまりの歴史に幕を閉じ、フジテレビジョンを退社する。国際医療福祉大学大学院教授に転身するが、神奈川県知事選立候補のため、辞職する。
平成23年4月23日に正式に神奈川県知事に就任し、「いのち輝くマグネット神奈川」の実現に向けて全力で取り組んでいる。
島田 真理恵 上智大学総合人間科学部看護学科教授プロフィール
1959年に東京都で生まれる。
1982年に聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)を卒業し、助産師として日本赤十字社医療センター、愛育病院、聖母病院に勤務する。
1997年に聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)大学院を修了し、東京都立医療技術短期大学の講師に就任する。
1998年に東京都立保健科学大学の講師に就任を経て、
2004年に東京慈恵会医科大学医学部看護学科助教授に就任する。
2005年に昭和大学で医学博士号を取得する。
2007年に聖母大学看護学部教授に就任を経て、2011年に上智大学総合人間科学部看護学科教授に就任する。
日本助産師会副会長、日本助産学会監事など。
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