第12回 外国人看護師問題

第12回 外国人看護師問題

清水 嘉与子
日本看護連盟会長

外国人看護師問題

黒岩:外国人看護師問題は清水会長とは意見が違うところかもしれません。EPAでインドネシア・フィリピンから候補の方たちが来られていますが、本来は日本が外国人医療関係者をどういうふうにするかというグランドデザインを決めたうえで招き入れるべきでした。でも、実際は経済連携の中の2国間協議の中で出現した話なのです。自動車の関税をなくす代わりに、医療介護の人材を受け入れることを決めたんですね。そういう決め方はおかしいですし、来られた人たちはそういう経緯について知らないんです。その中で、看護協会は反対の立場をとってこられました。外国人看護師が入ってきて現場で働き始めると、安い賃金で使われるのではないかと危惧されたんですね。看護師の待遇改善に取り組んできたのに、元に戻るのではないかという心配があって、反対の立場になったようでした。そのために、日本の看護師国家試験を3年以内に通らないといけないという高いハードルを設けました。私としては、そこはもう少し緩やかでもいいのではないかと思っています。実際、日本語の試験が難しくて、なかなか通らないんですね。最近になって、ようやく通るようになってきましたが、本来の話からすれば、原点に立ち戻って、外国人の看護師、介護士をどう受け入れるのかというグランドデザインを国が描き、しっかりと示すことが大事です。そのうえで、外国人を受け入れるのであれば、ハードルを低くしてもいいでしょう。

清水:私は医療というものは教育や警察と同じように、各国が自国の国民のためにサービスすべきものだと思っています。どこの国でも、自国の国民を教育しているわけですから、自国で働くのが当然です。日本で看護師が足りないから、ほかの国から安く集めようというのは発想として間違っています。ただ、様々な人が交流を持つことは必要です。今の日本のトップの看護師を見ると、外国で学んできた人が多いんですね。日本に看護大学がなく、教育制度が貧しかったときに留学して、帰国後にリーダーになっているんですね。アジア地域で、日本がそういう役割を持つのは大事でしょう。EPAは私が国会議員時代に持ち上がった問題です。日本で働くのであれば、患者さんはほとんどが日本人です。医療の現場ではヒヤリハットからの事故が大きく、看護師が関わることが多くなっています。知事はハードルが高いとおっしゃいますが、指示が分からない、日本語が分からない人たちがどうやって看護師として働けるのでしょうか。助手としてならともかく、看護師として働きたいのであれば、日本語を勉強していただいて、患者さんと意思疎通してほしいです。日本人看護師も外国に行ったら、その国の言葉をきちんと学んで、資格を取っています。語学力は最低限必要ですから、そのための教育はきちんとします。ただ、外国人の若い女性たちに何年も日本にいてもらうことは難しいでしょう。日本のいいところを研究して、自国に帰ってもらうのがあるべき姿です。その意味で、折角、来日された人たちは皆、試験に受かるように協力してあげたいですね。現在のEPAという形で入ってこられたことは幸せでないと思っています。

黒岩:神奈川県では外国人看護師問題をきっかけに、かながわ国際ファンクラブをつくりました。EPA看護師や留学生、駐在員など、神奈川県に何年か住んだことのある人は全員、神奈川のファンになって帰国してもらうのが狙いです。県庁のホームページにサイトがあって誰でも登録可能です。キャスター時代、EPA候補生の取材をしたことがありましたが、あまりにも国家試験のハードルが高くて、日本が嫌になって帰国した人もいました。期待を持って来日したのに、日本を嫌いになって帰ってしまったら、国際戦略の中では大きな問題です。本来は制度を変えるのがベストですが、制度が変わらない以上、まずは皆で手を差し伸べたいと思います。昔から留学生の母だと呼ばれている人や自宅で留学生の面倒を見ている人など、色々な人がいますので、そういう方々にもサポート会員として登録していただいて、情報交換をしたり、パーティーをしています。EPA看護師の最大の課題は日本語の修得ですが、神奈川県の施設を優先的に使っていただいて、日本語を勉強してもらうための場をつくるなど、あらゆるサポートを行っています。

京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区

― 神奈川県では新しい構想もありますね。

黒岩:京浜臨海部が、ライフイノベーションの国際戦略総合特区の指定を国から受けました。4つの区域のうち、羽田空港と川を隔てて向かい側の殿町区域は、今は研究機関などの施設が一部建っているだけですが、ここを開かれた医療の拠点にしたいと思っています。日本の医療体系とは全く違った形になりますよ。医療の出島ですので、ある種の外国ですね。日本は国民皆保険という、ある意味では世界最高の制度を持っています。でも、それがいつまで持続可能かどうかは分かりません。世界最先端の医療の一方で、取り残されている面もあります。ドラッグラグやデバイスラグの問題で、世界で普通に使っている薬が日本では使えないことがあります。こういう問題を解消していきたいのに、日本全体ではなかなか難しいんですね。そこで、特区の中でやっていきたいと思っています。ここでは外国人医師や外国人看護師がそのまま働ける環境をつくりたいと考えています。国際的な医療人材も育てたいですね。国際的な医学部をつくろうという構想も持っています。神奈川県で策定した医療のグランドデザインの中でも医学部をつくる話がありましたが、案がまとまらず、両論併記になってしまっています。それならば、特区の中で特別な医学部をつくろうということです。

清水:相当長く、知事を続けなくてはいけませんね(笑)。

黒岩:その医学部では国際的な医療人材を育てるために、全て英語で教育するのです。英語圏の大学みたいになりますよ。そこだったら、外国人看護師もそのまま働けますからね。あとはマネージメントの問題です。

― 看護学部も構想中ですか。

黒岩:看護学部は今のところ考えていませんが、やるというところがあれば大歓迎です。現在は医学部と研究施設等の予定で、そこに新しい医療産業が育っていくような仕掛けをつくりたいと思っています。国際戦略総合特区は各地域が競争になり、プレゼンテーションの機会が3度もありました。神奈川県は私が先頭に立って、プレゼンテーションを行い、特区の指定を国から受けました。

清水:知事自らプレゼンテーションなさったんですか。

黒岩:そうです。どうしても実現させたかったので、審査会場に行って、新しい医療の拠点をつくると宣言しました。

清水:国はアイディアを出させるだけ出させて、あとでお金をくれるのですか。

黒岩:簡単にはくれないですね(笑)。ただ、神奈川県と川崎市、横浜市との共同プロジェクトなのですが、国としても経済を回していく成長エンジンの一つにしたいという思いがあります。公費は必要ですが、公費に頼ると、ハコモノだけで終わってしまい、大抵、失敗するんですね。本当のイノベーションになるためには民間のお金が回ることが必要です。儲かる話にならないと、成功しません。したがって、医療政策ではなく、産業経済政策なのです。医療政策だと社会保障だということになって、儲け話をしたらいけないという流れになります。そのため、ライフイノベーションは経済成長政策だということを前面に出しています。民間の資金が回って、大きく膨らんでいくことで、日本の中だけではなく、日本の生み出す薬などをアジア全体に発信していける拠点となることを目指します。呼び水としての公的資金は必要ですが、それに頼らず、民間資金をどう動かすかという仕掛けが必要です。

清水:是非、そのプロジェクトに看護協会も加わりたいですね。今は日本人看護師と外国人看護師を別々に教育していますが、コアカリキュラムを使えば、同様に教育できるはずなんです。そうすれば、もっと違った人材が出てくるでしょう。

黒岩:チーム医療は教育の現場からですものね。

清水:それにしても、すごい発想ですね。楽しくなります。

黒岩:日本の医療は国民皆保険制度ですから、平等が原則となっています。だからこそ、世界最高の長寿国で、乳幼児死亡率の低い、素晴らしい国なのですが、持続可能かどうかとなると、ぎりぎりですよね。それはそれで守りつつ、一方で折角の財産を経済を回すエンジンにしていくことが国家戦略として求められています。

日本看護連盟が目指すこと

― 神奈川県では新しい構想もありますね。

黒岩:京浜臨海部が、ライフイノベーションの国際戦略総合特区の指定を国から受けました。4つの区域のうち、羽田空港と川を隔てて向かい側の殿町区域は、今は研究機関などの施設が一部建っているだけですが、ここを開かれた医療の拠点にしたいと思っています。日本の医療体系とは全く違った形になりますよ。医療の出島ですので、ある種の外国ですね。日本は国民皆保険という、ある意味では世界最高の制度を持っています。でも、それがいつまで持続可能かどうかは分かりません。世界最先端の医療の一方で、取り残されている面もあります。ドラッグラグやデバイスラグの問題で、世界で普通に使っている薬が日本では使えないことがあります。こういう問題を解消していきたいのに、日本全体ではなかなか難しいんですね。そこで、特区の中でやっていきたいと思っています。ここでは外国人医師や外国人看護師がそのまま働ける環境をつくりたいと考えています。国際的な医療人材も育てたいですね。国際的な医学部をつくろうという構想も持っています。神奈川県で策定した医療のグランドデザインの中でも医学部をつくる話がありましたが、案がまとまらず、両論併記になってしまっています。それならば、特区の中で特別な医学部をつくろうということです。

清水:相当長く、知事を続けなくてはいけませんね(笑)。

黒岩:その医学部では国際的な医療人材を育てるために、全て英語で教育するのです。英語圏の大学みたいになりますよ。そこだったら、外国人看護師もそのまま働けますからね。あとはマネージメントの問題です。

― 看護学部も構想中ですか。

黒岩:看護学部は今のところ考えていませんが、やるというところがあれば大歓迎です。現在は医学部と研究施設等の予定で、そこに新しい医療産業が育っていくような仕掛けをつくりたいと思っています。国際戦略総合特区は各地域が競争になり、プレゼンテーションの機会が3度もありました。神奈川県は私が先頭に立って、プレゼンテーションを行い、特区の指定を国から受けました。

清水:知事自らプレゼンテーションなさったんですか。

黒岩:そうです。どうしても実現させたかったので、審査会場に行って、新しい医療の拠点をつくると宣言しました。

清水:国はアイディアを出させるだけ出させて、あとでお金をくれるのですか。

黒岩:まだまだご活躍ください(笑)。政党支持の問題は難しいところでしょうが、看護連盟は自民党にも民主党にも議員がいますからね。看護連盟の数の力による結束力は本当にすごいです。

清水:結束力はありますね。ただ、大都市では浸透しにくいので、神奈川県ではもっと頑張らないといけません。

黒岩:以前から申し上げていますが、看護系の議員を誕生させることも大事ですが、それぞれの地域で看護師が推す議員がいるというのも理想ですね。

清水:各都道府県に議員連盟をつくって活動していますし、これまでやってきた成果をこれからも引き続いてやっていきます。今までやってきたことは間違いでなかったと信じています。これからも頑張ります。

清水 嘉与子 プロフィール

1935年に東京都に生まれる。1958年に東京大学医学部衛生看護学科を卒業後、関東逓信病院に保健師、看護師長として10年間、勤務する。その後、東京大学医学部保健学科助手を経て、厚生省(現 厚生労働省)看護課で、保健婦係長、課長補佐、課長として15年間、看護行政に取り組む。1989年の参議院議員選挙に自民党公認で比例代表区から出馬し、初当選し、看護をはじめ医療保健・福祉、環境問題などに関わる。その後、2期連続当選を重ねる。この間、労働政務次官、文教委員長、環境庁長官、少子高齢社会に関する調査会長を務める。2007年に政界を引退する。2008年4月に日本訪問看護振興財団理事長に、2009年5月に国際看護交流協会理事長に就任を経て、2009年6月に日本看護連盟会長に就任する。