山口:当院は人材を財産だと考え、看護職員の教育に力を入れています。看護部には年間500万円の教育予算があり、主に外部研修の参加費や講師の招聘に使っています。院内、院外での研修を通じて、自己のキャリアを高めてほしいですね。他の病院では勤務時間外で行う研修も、当院では院内研修はできるだけ勤務時間内で行なっています。また、院外研修も出張扱いとなりますから恵まれていると思います。2010年度には計37回の院内研修を行い、延べ参加人数は712人となっています。固定チームナーシング、フィジカルアセスメント、個人情報保護法などは特に参加者の多い研修です。2010年度は院外研修に延べ512人が参加しています。
豊田:私は院内、院外の研修に積極的に参加しています。院内研修は勤務時間内、院外研修は出張扱いになりますので有り難いですね。研修してきた内容はレジュメを作って、勉強会で報告しています。学生実習の指導者研修は40日間ありましたので、ほかのスタッフには迷惑をかけてしまいましたが、学んできたことを皆に還元できたらと思っています。指導者研修ではアサーション、自発性などが勉強になりました。アサーションは今の時代の流れであり、指示されたことを指示されたままにやる時代ではなくなりました。スタッフに指示をするときには話し方一つにも気を付けなればと思うようになりましたね。若い人は上司と話すだけで委縮するので、意見の幅が広がらなくなる恐れがあります。そこで、 「待つ」ことが大事です。これは学生だけでなくスタッフ間でも言えることですね。「お願いしたら待つ」患者さんに対しても「待つ」ことを心がけています。
足立:学生実習の指導者をしています。当院は学生実習の受け入れが多いので、いい印象を持たれるように、仕事を工夫しコミュニケーションを積極的にとるように心がけています。世代が違うことを実感することもありますね (笑)。また、CNSや認定看護師を目指したり、大学、大学院に通っているスタッフもいます。病院もバックアップしています。
荻原:私が卒業した看護学校からも後輩が実習に来ています。精神科の実習が一番楽しかったと言ってもらえると、嬉しいですね。看護学校の早い段階で精神科の実習を行うと、患者さんとの関わり方を今後に活かせます。実習の計画の中で人と人との関わり方が評価されますし、患者さんとの関係性を作っていけるいい機会です。
山口:プリセプター制度を導入しているほか、入職当初は他職種も一緒になってのオリエンテーションが特徴です。その後、看護部に配属になり、2日間をかけて技術トレーニングを行います。医療職はエビデンスに基づく職業観を持たなくてはいけませんし、ライターなどの危険物の取り扱いや患者さんの私物や鍵の管理といった精神科ならではの内容もあります。また、特に行動制限最小化に向けての取り組みについては重点的に行い、精神福祉法を学ぶ時間も設けています。
新人はゼロからのスタートですし、長い目で見て成長できるように、初期の受け入れ体制が大事です。当然、プリセプターだけでは支えきれないので、病棟の責任者がプリセプターをサポートしています。お蔭様で新人の定着率は高く、早期退職者はほとんどいません。過保護なぐらい皆で声を掛け合っていますよ (笑)。
陸:新人が成長してプリセプターも成長すると、上司にとっても嬉しいことです。
山口:一般の急性期病院は忙しいので、バーンナウトもありえますが、当院は一般病院と比べて緩やかですし、残業も少ないと思います。患者さんにゆっくり寄り添える病院ですから、本来の看護があるんですね。本当の看護を理解している看護師を育てたいです。
良い看護師を育てるためには役職者がきちんとした学びを持っていないといけません。そこで当院では科長、師長、主任、副主任といった役職に応じた研修を行っています。現在病棟に勤務する師長は全員が看護協会のファーストレベルを修了しています。また、当院は6校の看護学校から実習を受け入れているので、毎年数名を看護協会の臨床指導者研修に派遣しています。
荻原:精神科や認知症の知識など、患者さんに特化したものだけでなく、薬剤師が講師となった薬の勉強会などもあり、内容は幅広いです。私の場合は看護助手もしていましたので、准看護師や看護助手出身の人たちとは顔なじみですし、新人同士、仲良く勉強できました。
足立:入職して14年ですが、教育体制はかなり充実してきたと思います。私の頃は看護記録はこれからやっていこうという時期でしたし、私自身はプログラムに沿った教育を受けた世代ではありません。年々、入職してくるスタッフが若くなってきましたが、力のある看護師も増えてきて、新人育成が本格的に始まりました。新人看護師もきちんと教育を受け、よく応えてくれていると思います。
足立:入職した当初は学生気分が抜けませんので、まずは社会人としての礼儀や姿勢を教えています。技術面に関してはできないこともできるようになりますが、報告、連絡、相談の 「ほうれんそう」は特に大事ですので、最初に教育するようにしています。
荻原:看護技術はもちろんですが、患者さんの全体像を捉えて、看護計画を作っていく方法や、患者さんとの関わり方のアドバイスは勉強になりますね。看護学校での実習期間は短いですし、学校の授業や教科書の事例よりも、実際に患者さんに触れ合いながら病院で学ぶことの方が深いです。先輩方からは積極的に言葉がけをいただいています。
荻原:実習では吸引、食事介助、おむつ交換などや同級生同士でモデルを使って練習する程度だったのですが、実際に高齢の患者さんに接して、誤嚥しやすい人に食事介助をしたり、おむつの当て方などを学べることです。1日に何回かバイタルを取りますが、医師と連絡を取り合い、医師からの指示を受けて自分の看護を行ったり、リーダー業務を行います。医療行為によって患者さんの容態が変化した場合はその原因について振り返りや反省をしています。患者さんに直接関わることの責任の重さを日々、学んでいます。
小林:以前の病院に勤務していたときに修了しました。教育的な意味で、人との関わりについて体系づけられた勉強ができたと思います。当院でもファーストレベルの取得は進んでおり、このほど病棟師長全員が修了したので次は主任の番となります。教育はすぐに結果が出ることはないので、やはり「待つ」ことが大切ですね。その積み重ねによって、病院全体の看護スキルが向上していくのではないでしょうか。
山口:精神科認定看護師制度の中で、現在は「退院調整」の認定看護師が2人います。2年かけて学び、病院側も援助を行いました。今後は認知症など、様々な分野で認定看護師、専門看護師を出したいですね。看護師がキャリアを積んでいけるように、専門性を持った教育を行っていく予定です。
陸:精神科では内服薬での治療が主体となっています。ですので、治療の段階に応じたマニュアルを作成し患者さんが服薬を自己管理できるような取り組みを行なっています。
新人研修では「リスクとは?」と題しリスク用語を定義し、当院の医療安全レポートについての研修を実施したり「KYT4ラウンド法」「インシデントKYT」についてグループワークを行うなど、看護を行う上で安全を確保するために何が必要かについて学習してもらいます。
「個人情報保護」「チーム医療」の研修は全職員を対象として実施しました。また、リスク委員が各部署へ危険予知巡回を行い安全への意識付けを行なっています。
医療安全は患者安全だけではなく、働きやすい職場環境にも寄与すると考えています。