第1回 准看護師制度を考える
知事はキャスター時代から、看護師、特に准看護師について取り上げてこられましたが、何かきっかけとなるできごとがあったのでしょうか。
私はフジテレビ時代、1989年から2年間に渡って「スーパーニュース」という番組で救急の問題を取り上げ、結果として救急救命士誕生に結び付けました。その番組を見てくださっていた准看護師さんから「准看護師制度についても取り上げてください」とお手紙をいただいたのがきっかけです。私は准看護師のことを何も知らず、徹底的に学んだ結果、今どきありえないような矛盾に満ちた制度だと気付きました。同じ職場の中に看護師と准看護師という2つの資格を持つ人たちがいて、違う資格の人たちが同じ仕事をしているわけです。勉強して、教育レベルも資格レベルも違うのに同じ仕事をしているのであれば、看護とは何なのかという本質的な問題になります。看護協会も准看制度廃止を強く訴えていました。
医療の問題を扱うとき、私は常に患者さんの目線で考えていたのですが、この問題には別の目線から反対が起きました。医師会に所属する開業医の先生方を中心とした医師からの目線です。先生方も医師会立の准看護師学校の教員をするのは負担でしょうに、「勉強した看護師は生意気だ」、「看護師は優しくて、かわいければいいんだ」という女性蔑視のような声まで上がりましたし、中には准看護師を家庭のお手伝いさんのように扱う人もいたんですね。人件費が安く済むという経済的な理屈を優先させ、看護師の専門性を高めることで医療や看護の質を高めようとされないのが残念でした。
そこで、私は制度自体を廃止するのではなく、看護教育を改革して、准看養成を停止せよという提言を行ったのです。その結果、1997年に准看護問題調査検討会が「21世紀初頭には看護師養成を一本化できるように努める」という答申を出すところまで漕ぎ着けることができました。しかし、日本医師会も合意した結論だったにも関わらず、恐らく地方の医師会からの突き上げがあったのでしょうが、結論はひっくり返されてしまい、現在もそのままになっています。
准看護師養成停止はどのようになっていくのでしょうか。
イギリスにも准看制度があったのですが、停止になりました。正確に申し上げると、制度自体が廃止されたのではなく、看護教育改革を行い、准看養成をなくしたのです。したがって、今も准看護師が働いてはいますが、新しい准看護師が誕生していないんですね。「教育改革」と言うと、抵抗が少なくなりますし、国民が高度医療を求めている現在、准看教育では不十分だという世論を日本でも作っていくことが現実的で、その方が実現可能性が高いとみています。
准看護師廃止の取り組みは看護師のステイタスを向上させる意味もあったと思われますが、今、議論が活発になっている「特定看護師(仮称)」についてはどんな意見をお持ちですか。
私は反対です。目指すべきはアメリカ型のナースプラクショナーではないでしょうか。フジテレビ時代に「感動の看護師最前線」の取材で、アメリカを訪れたときに、ナースプラクショナーの存在を知り、驚きました。通常の診療行為をドクターではなく、ナースプラクショナーが行っていたんですね。医師は後ろに控え、医師に診せた方がいいケースだけを診ていました。これは「診療看護師」と訳されており、上のレベルを目指す看護師には最適の資格だと思いました。
その後、認定看護師や専門看護師が誕生し、ナースのレベルもずいぶん上がってきました。私はその先にある資格がナースプラクショナーだと思っていたのですが、特定看護師の話を聞き、戸惑いを覚えました。特定看護師は中途半端な存在です。「特定看護師とは何か」との問いに対して、一般的には「診療行為の一部が許された看護師」であると説明されてしまうでしょう。するとナースプラクショナーへの道は閉ざされてしまいます。私はより高い専門性と大きな責任を必要とされ、自立した存在であるナースプラクショナーを目指すべきだと考えます。
准看護師問題とは
准看護師は准看護師学校(准看護師養成所)あるいは看護高等学校卒業後、都道府県知事試験の受験資格が与えられ、知事試験に合格すると都道府県知事から准看護師の免許が交付される。
准看護師が日本で設けられている背景には戦後の看護師不足に対応するための暫定措置という性格がある。しかし、看護師にはますます高度な専門的知識や技術が要求されるようになりつつあり、日本看護協会は准看護師制度の廃止を希望しているが、幅広い労働条件の看護労働力を求める日本医師会などの要望もあり、検討段階にある。
特定看護師とは
アメリカで言うNP(診療看護師)とは異なり、特定看護師とは、医師の指示のもと特定の医療行為(傷口の縫合、投薬の変更や中止、人工呼吸器の気管挿管、床ずれの処置、重症度や治療効果判定のための検査)を行える看護師を言う。その資格取得には、国内で5年以上の臨床経験がある看護師で大学院の所定の養成コースを修了した者とされている。
平成23年11月の厚生労働省の見解では、専門資格の創設も検討されたが新たな職種に独占的な権限を与えることに反発も多く見送られた。今後も議論は必至とみられている。