vol.37独立行政法人国立病院機構 災害医療センター
平成23年4月1日に新院長になりました高里良男です。就任の挨拶を申し上げます。今までも多方面の方々に支援をいただき、開院後16年当センターもここまで育って来ました。社会情勢、医療状勢とも大きく変貌していますが、維持すべきは維持し、しかし変るべきは果断に変え、更なる病院力の向上に努めて参りたいと思います。
当院の使命は日常の高度な急性期医療と政策医療としての災害医療です。
日常診療では地域約100万人の方達をカバーする救命救急センターを持つ病院として、年間約2000例の外傷、脳卒中、循環器疾患など全国でも1、2を競う各種重症救急患者を含む、年間約1万人の入院患者を治療しています。
また急性期医療といいましても救急疾患のみを意味しているわけではありません。平成20年7月には地域医療支援病院また平成22年3月には東京都認定がん診療病院の指定をうけ、当二次医療圏で最も診療占有率の高い地域中核総合病院として通院治療センターや高度放射線治療機器、血液透析室、内科総合診療機能、血液疾患無菌治療室の拡充など機能充実に努力をしてきています。
この各種病院機能の充実に向けて地域医療連携室を数年間で室長医師1名、担当看護師2名、医療福祉相談員(MSW)7名、事務員6名の総勢16名へ大幅増員を図りました。病診・病〃連携(脳卒中、大腿骨骨折、糖尿病、がん診療、がん相談支援など)を今後も更に充実させて行きたいと思います。
政策医療の災害医療につきましては大震災を中心とする国の危機管理として、今を遡る32年前の昭和54年に立川広域防災基地(内閣府分室、警視庁、防衛省立川基地、総務省多摩消防指令センター、海上保安庁、東京都庁分室など)構想が策定されました。その中の厚生労働の医療部門として当院は位置付けられています。構想策定の16年後の平成7年1月17日に阪神淡路大震災が起こりました。またその16年後の平成23年3月11日にマグニチュ-ド9.0という日本の記録史上最大の大震災が起こり、現在も懸命の救助・救援が続けられています。
今回の東日本大震災において当災害医療センターは特に超急性~急性期災害医療の基幹拠点病院であり、日本DMAT(災害医療支援チーム)事務局として全国約600の災害拠点およびDMATのいる病院の約4500人の隊員からの情報の取りまとめ、職員や外部からの支援者による総力で活動指揮の本部機能を交代で夜を徹し果たしてきました。またその情報調整・指揮本部は福島の原子力発電所被災による放射線被曝問題も加わったこともあり72時間くらいを目途とするDMATとしてはかなり長い発災より12日間も続きました。当院から災害現地の病院支援、情報現地収集、県庁支援、広域搬送支援、放射線汚染測定などの合計34名が、全国のDMATは300隊(原則5名1班)が発災直後より出動して活動しました。また院内では被災地からの重症患者さんを3名受け入れ、放射線汚染測定の総数は約230名ありました。
皆さんがテレビ報道で見ている、他の府県への患者搬送(広域搬送)などのアレンジもほとんどは当院DMAT事務局からの調整により行われてきました。現在はこれから何カ月にも及ぶであろう避難者の方々の救護所の医療へと移ってきています。
これから想定されている首都直下型地震、東海地震、南海-東南海地震などに対しても更にしっかりと準備をして行かねばなりません。
このように総勢約850名の職員一同、地域医療にまた災害医療にまい進してまいりますのでよろしくお願いいたします。
わたしたちは、広域災害時にも即応できる高度で良質な医療を、患者さまの立場に立っていつでも提供できるよう、健全な病院の運営を目指します。
わたしたちはやさしさをモットーに、安心と満足をしていただける最良の看護を目指します。
災害医療センターの教育制度は、新人から5年目くらいまでは国立病院機構の職員能力開発プログラムに沿って、機会教育(OJT)と集合教育(OFF-JT)で段階的にしっかり学べるように組んであります。また、災害医療を担う病院として、新たに入職された方にはまず、地震の揺れや煙のなかを避難する防災館の体験学習をしていただきます。9月と1月には消防などと合同で災害訓練を実施し、被災者の受け入れ訓練などを行っています。当院では、新人の方を配属された病棟や病院全体で育てていこうと考えており、フォローアップを十分行っていますので、安心していらして下さい。
領域 | 研修名 | 目的・目標 | 方法 |
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新人 | 新採用者 オリエンテーション |
災害医療センターの概要を理解し、組織の一員としての役割を認識し行動できる | 講義 |
看護技術 感染防止対策 |
安全な看護技術を提供できる 感染防止対策を理解できる |
講義 演習 |
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看護技術 静脈注射 |
安全に静脈注射が実施できる | 講義 ロールプレイ |
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フォローアップ | リアリティーショックを回避できる | GW | |
日勤の業務内容を理解し、業務を組み立てることができる | GW | ||
看護倫理Ⅰ | 臨床における社会人としての態度を身に付ける事ができ、倫理的問題に気づく事ができる | 講義 GW |
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メンバーシップⅠ | 看護実践の場において多重課題に対し的確な判断および行動ができる | GW | |
自己の振り返り | この1年の自分を振り返り、思い出に残った患者出来事から、看護とは何かを考える事ができ今後の課題を明確にできる。 | GW | |
サーフロー針留置 研修 |
安全にサーフロー針留置を実施できる | 実技・演習 チェックリスト |
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2年目 | 看護倫理Ⅱ | 倫理に基づいた行動ができる | 講義・GW |
メンバーシップⅡ | チームの中でメンバーとしての役割行動がとれる ・自己と他メンバーの立場や役割を尊重し行動できる ・自分の考えをリーダーに伝えることができる ・問題意識を持って、日常の業務・看護を振り返ることができる |
講義・演習 | |
メンバーシップⅡ | 業務におけるリーダーシップ(日々のリーダー業務)を発揮する | 講義 シュミレーション |
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プリセプター導入 | 新人の役割モデルとなる能力を習得する | 講義 GW |
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看護過程の展開 | 受持ち患者の看護過程が展開できる 1事例の看護過程の展開を通して、科学的根拠に基づいたケアを提供でき、看護実践を語ることができる |
講義・演習 | |
事例 | |||
発表 (ポスターセッション) |
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3年目 | プリセプター シップ |
新人の役割モデルとなる能力を習得する | GW |
医療チーム内でメンバーシップを発揮する | GW | ||
看護倫理Ⅲ | 倫理上の問題に気づき問題提起できる | 講義・GW | |
4~5年目 | 看護マネジメント | チーム医療における看護師の役割を理解し実践できる | 講義 |
GW 経過報告 |
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発表 (パワーポイント) |
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看護倫理Ⅳ | 倫理的視点に基づく看護実践行動を習得する | 講義・GW | |
6年目以上 | 看護倫理Ⅴ | 医療従事者としての倫理的感受性を高め、模範的態度が取れる | GW 事例検討 |
中間管理者 | 看護管理 | グループマネジメント | GW |
全看護職員 | マナー講座 | 医療者としてのマナーを身につける | 講義 演習 |
身だしなみ・挨拶・対応について講義・演習 | 講義 ロールプレイ |
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援助関係 (コミュニケー ション技術) |
患者の理解と患者・家族との良好な人間関係を確立できる | 講義 演習 |
領域 | 研修名 | 目的・目標 | 方法 |
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新人 | 新採用者 オリエンテーション |
災害医療センターの職員として災害医療看護に対応するための知識・技術を習得する | 講義 OJT |
各部署での防災対策を理解する | |||
院内災害研修 | 災害発生時災害対応マニュアルを理解できる | ||
2年目 | 災害看護① | 院内災害対応を理解する | 講義 |
院内災害研修 | 災害発生時災害対応マニュアルに沿って初期行動が取れる | ||
3年目 | 災害看護② | 災害時に必要な知識・技術を習得する | 講義 シミュレーション |
4~5年目 | 災害看護③ | 被災者の心理を理解する | 講義 演習 |
災害看護④ | 災害発生後、急性期に必要な知識を理解する | 講義・GW | |
5年目以上 | 災害看護⑤ | 現場救護所での医療活動を理解する | シミュレーション 合同訓練 |
領域 | 研修名 | 目的・目標 | 方法 |
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希望者 | 感染対策 | 感染対策に必要な知識を得る(総論) | 講義 |
摂食・嚥下 口腔ケア |
口から食べる喜びと患者様の笑顔を取り戻そう | 講義・演習 | |
がん看護 | がん看護についての理解を深め、看護を実践できる | 講義 | |
皮膚・褥瘡ケア | 褥瘡発生のメカニズム、褥創発生の予防技術を理解し褥瘡発生予防が実践できる | 講義・演習 | |
重症ケア | 急変のアセスメントと初期対応Ⅰ -急変事態に即応するための知識を身につける- |
講義 | |
急変時のアセスメントと初期対応Ⅱ -急変時対応をイメージでし、必要なスキルを学ぶ- |
講義 | ||
退院支援 | 退院支援の知識方法について学び実践できる能力を養う | 講義・GW | |
NST | 患者の栄養評価が適切にでき、NSTへのコンサルテーションがスムーズにできる | 講義・GW |
国立病院機構の関連施設の中で、各病院の専門テーマについての公開講座や実習指導者、退院調整看護師、管理職研修などが企画されていますので、希望のプログラムに参加することができます。認定看護師資格取得のためのコースを受講する場合は、その期間は職に就いたまま研修という形で学ぶことも可能です。(福田淑江)
この職業を選んだのは、高校時代に看護学校に進学した友人がいて、看護というものを身近に感じていたのと、女性が社会的に自立していける仕事に就きたいと考えていたためです。就職してからは急性期、慢性期、リハビリをメインにした病院など、5つの施設を経験し、本当に様々な人との出会いがありました。その中で、「生きるということはどういうことか」とか「人生の意味とは」といったことを考えさせられ、貴重な体験ができたと思います。また、結婚したときに主人と「男性は家庭で自立すること。女性は社会で自立すること」という約束をして仕事を続けてきましたが、結婚、育児、親の介護も一段落して、社会的な自立という意味でも、目標は達成できたかなと考えています。
人には生命を維持するために必要な生理的な欲求や、社会的欲求、自己実現の欲求など、様々な欲求があります。こうしたものを持つ個としての患者さんに関わり、自分を取り戻す手助けをしたいという純粋な気持ちを持ち続けることが看護の基本だと思います。
一言で言うと、「誠実な人」です。これは患者さんとの間に信頼関係を構築するうえで最も大切なものだと思いますので、物事に真摯に取り組める誠実な方を求めています。
当院には、災害医療と救急医療という2つの役割がありますので、平時には救命センターを擁する急性期病院として、今後も地域医療を担っていきます。救命センターには、救急看護認定看護師が3名働いていますが、今年の6月から一般病棟をラウンドして、重症患者さんのケアの指導やコンサルテーションを行う活動を始めました。災害医療に関しては、4月に厚生労働省医政局の災害医療対策室事務局が当院に設置されました。そこで、DMAT(災害派遣医療チーム)の隊員養成を行っており、当院のDMAT隊員の数は約50名、DMATを指導するインストラクターも3名います。今後も専門性を持つ看護師を育成し、災害時の派遣要請に迅速に対応できるよう、人材を育成していく所存です。
当センターが所属している国立病院機構の本部が東京医療保健大学と連携し大学院にNP(診療看護師)養成過程を新設しました。このコースに当院からも看護師が1名進学していますが、彼が2年後に現場に戻ってきたときに活躍できる体制の整備をしていくつもりです。また、当センターは4月に、東京都の認定がん診療病院に認定されましたので、これからは急性期だけでなく、がん看護も充実させていきたいですね。
病気はその人の価値観や人生観をも変えるような劇的な体験ですので、患者さんの身体面だけでなく、心や人生を含めてとらえられる看護師になっていただければと思っています。
・24時間営業
・ATM・郵便ポスト設置
【平日】9:00~19:30
【土・日・祝日】11:00~16:00
菅野:私は高校の卒業間近まで、将来、何になりたいかはっきりしなかったのですが、ある日、外国の救命士を取り上げたテレビ番組で、女性の救命士さんが男性に混じって働いているのを見て、「これだ」と思うようになりました。卒業後は救命士の専門学校に進学し、看護学校でも勉強したのですが、在学中に福知山線脱線事故が起こり、初めてDMATの存在を知りました。それから、岩手・宮城内陸地震や秋葉原無差別殺傷事件などでもDMATの活躍を見て、救急とDMATの両方に携わりたいと思い、こちらの病院に就職しました。
浅利:私は子どもの頃から多摩地域に住んでいましたので、災害医療センターは身近な存在でした。小さいときから漠然と看護師に憧れていたのですが、高校のときに「病気や怪我など全ての傷病者を診て、いかなる状況にも対応できる看護師になりたい」と考えるようになり、「災害医療に関わり、多種多様な診療科を備えているこの病院で働きたい」と思ったんです。そして卒業後、附属の看護学校に進学し、そのまま当センターに入職しました。
深谷:私と菅野さんが配属されている救命救急病棟は救急車で運ばれてきた患者さんの処置や検査の介助をします。超急性期から急性期にかけての方が多く、操作が複雑な機械を動かし、日々苦戦しながら業務に当たっています。
浅利:私が所属しているのは混合病棟で、呼吸器外科と消化器内科、皮膚科、形成外科など、内科も外科もあります。仕事内容は外科的処置や化学療法の看護、人工呼吸器の管理など多岐に渡っていますが、様々な症例を診られる病棟でもあります。平常時に対応できないことは災害時にもできないので、多くの科を見ることで災害の時にも役立つ多角的視点が養われますね。
鈴木:第8西病棟は呼吸器内科と神経内科が入っています。神経内科は脳梗塞の患者さんが中心ですので、基本は急性期ではありますが、リハビリ期も含まれますので、外科よりは多少ゆったりしていますね。呼吸器内科には肺がんで化学療法を受けていて、入退院を繰り返している患者さんが多くいらっしゃいます。ターミナル期も含まれる病棟なので、患者さんとご家族の方との関わりにも難しい面があり、先輩などと相談しながらケアに当たっています。
深谷:救命救急病棟では、患者さんが心肺停止状態で運ばれてくることがあります。そうした方が医師や看護師、スタッフが皆の協力によるケアで蘇生に成功し、回復されたときにはとても遣り甲斐を感じますね。患者さんが歩いたり、シャワーを浴びたりしている姿を見たときには「ここで働いていてよかったな」と思います。
浅利:退院していかれる方を見送るときには非常に遣り甲斐を感じます。しかし、元気に退院されていく方ばかりではなく、痛みなどに苦しむ場面に直面しなければならないときもあります。そういった際に患部をさすったりすることしかできないと、ふがいなさを感じますが、患者さんから「ありがとう」とか、「あなたがいてくれてよかった」などと言っていただけると、とても嬉しいですね。患者さんと深く関わることで、信頼関係が構築できたときには特に大きな充実感が得られます。
深谷:昨年、救急看護認定看護師の看護研修学校に通学したのですが、その間もお給料をいただきながら勉強させてもらえたので、非常に助かりました。
浅利:私は実家がすぐ近くにありますが、仕事に専念したかったので、入職と同時に敷地内の官舎に入りました。また、院内に保育園もでき、子どもが小さいうちは育児短時間勤務や超過勤務の免除が申請できるなど、子育て支援もしっかりしています。介護休暇の制度なども整備されているので、安心して長く働ける環境であることがいいですね。
菅野:当院は病棟の朝の申し送りのときにも、「今、地震が起きたらどのような対応をするか」といった災害のシミュレーションをするなど、日頃から災害医療に高い意識を持っています。そういった分野に興味のある方は是非、見学にいらっしゃってください。
浅利:災害医療センターは、病棟でも毎月、勉強会が開催されますし、新人が1日でも早く職場になじんで、仕事を覚えられるように、研修やプリセプター制度が充実しています。私は感染について感心があり、それを師長に話したところ、院内の認定看護師の方から研修を受けることもできました。このように、その人のやりたいことを尊重して、キャリアアップできるようなサポート体制もあり、とても恵まれている職場です。
武田:当院は症例数も多く、どんな場面にも対応できる看護師を目指している方が応募してきています。救命救急や災害医療に関しての教育体制もしっかり整っていますので、やる気のある方には十分、満足できる病院です。
vol.37独立行政法人国立病院機構 災害医療センター