潜在看護師の復職支援プログラムを推進する
八尾徳洲会総合病院 峰 睦子看護部長
現在、日本には免許を取得したものの、看護職を離れている潜在看護師が約55万人存在している。看護師不足の折、潜在看護師に再教育を施し、医療や介護の現場に戻ってもらおうとする動きがさかんになってきた。そこで潜在看護師の復職支援プロジェクトが各病院で進められている。
今回ご紹介する八尾徳洲会総合病院(大阪府八尾市)でも、2006年から「看護師確保プロジェクト」を開始し、その中で潜在看護師の就労支援を行うプログラムを策定した。このプロジェクトを牽引するのが峰睦子看護部長である。
峰看護部長は、かつて国立病院附属看護学校で教育の現場に携わっており、その経験を生かして、次々にアイディアを投入する。「高齢社会の中でますます看護師の役割が大きくなっている。ぜひ社会貢献してほしい」と語る峰看護部長にお話を伺ってきた。
1948年愛媛県今治市で生まれる。1969年に国立京都病院附属高等看護学院(現 国立病院機構京都医療センター附属京都看護助産学校)を卒業後、国立京都病院(現 国立病院機構京都医療センター)に勤務する。外科病棟で10年の勤務の後、母校で教育に携わる。
その後、大阪府豊中市の刀根山病院附属看護学校に移り、引き続き教員を務める。そして臨床の現場に戻り、国立奈良病院(現 市立奈良病院)手術室師長、国立療養所比良病院(現 国立病院機構滋賀病院)副総看護師長、国立療養所宇多野病院(現 国立病院機構宇多野病院)副看護部長を経て、2002年に八尾徳洲会総合病院に副看護部長として着任する。2004年11月に看護部長に就任し、現在に至る。
●徳洲会へ…
●充実した新人教育プログラム
●キャリア開発プログラム
●潜在看護師復職支援プログラム
●八尾徳洲会病院の魅力
●メッセージ
徳洲会の東京本部で看護統括部長をしている人が国立病院の出身で、国立病院から徳洲会への転職者を募っていたんです。国立病院は転勤が多く、比良病院に勤めていたときは滋賀郡志賀町まで通えませんから、単身赴任も経験したんですが、既に自宅を奈良に建てていたこともあって、自宅から通える病院に勤めたいと思うようになっていました。それで八尾徳洲会総合病院を紹介して頂いたわけです。
国立病院に比べて、スタッフが定着しないことには驚きましたね。国立病院では年度初めに立てた人員計画で年度終わりまでやっていけるのですが、なかなかそういうわけにはいかなかったです。ただ自由度の高さは民間病院の大きな魅力ですね。何かしようと思ったときに、早ければその日からでも実行できるのは民間の強みだと思います。
プリセプター制度を導入していますが、3年目の看護師がプリセプターをしていることが特徴でしょうか。プリセプターがプリセプティーと年齢が離れていれば、お互いやり辛いんですね。プリセプティーの気持ちを理解することも難しくなります。かと言って2年目の看護師ではまだまだ自分のことで精一杯ですので、3年目の看護師に担当させるのがベストだと考えました。主にメンタル的な相談に乗ってもらっています。技術的なことは主任クラスがサポートする体制です。二人の関係がうまくいかないようであれば、途中でメンバー交代も行います。
20人ほどですね。私どもはICUを含めて8病棟ですから、そのぐらいの人数が妥当です。あまり人数が多いと教育も大変ですので、良い規模だと思います。2006年度も20人入職しましたが、1年ほど経った現在も誰も辞めていないんですよ。先ほどお話したメンタル面のサポートが大きいですね。
「ゆっくりと、一から、慌てないで、根気強く」教えていくということですね。医療も随分高度になってきましたが、そういった技術は現場で学んでいけます。大事なのは「考える力」を養成することでしょうね。
5年ぐらい基礎を勉強したら、どこに行っても恥ずかしくない看護師になれると思います。私どもではまだ認定看護師は一人なのですが、今後、資格取得に際しては支援を惜しまず、協力したいですね。それが臨床の質を上げることにつながりますし。そして外部の方も、私どもに勤務して頂けたら、そういったバックアップ体制を取れるということを打ち出していけると考えています。
私どもも大学院で保健師としての勉強をしてきたスタッフがおります。私どもを代表する診療科は循環器内科なのですが、そこでの糖尿病外来や心臓リハなどの保健指導や生活指導などに力を発揮してくれています。エキスパートが増えていくことは他のスタッフの刺激になりますね。
日本の看護師免許は海外では使えませんので、海外ではあくまでも見学するぐらいですけれど、積極的に行っています。ブルガリアの徳洲会ソフィア病院はまだ立ち上げたばかりなので、これからの交流になっていくと思われます。今後はイギリスのケンブリッジ大学やスウェーデンのカロリンスカヤ大学での研修を検討しています。
2006年11月に「看護師確保プロジェクトチーム」を立ち上げました。その中に、看護学校訪問チーム、中学生への啓蒙チーム、ハローワーク訪問チーム、広告・宣伝チーム、教育チームに加え、潜在看護師チームを作ったのです。その潜在看護師チームが主軸となって、研修メニューを策定していきました。
午前中は座学や電子カルテの操作実習、午後からは点滴や輸液ポンプの使い方などの演習です。座学では最近の医療動向などの話をしました。また電子カルテの操作実習では、ブランクが長い看護師は電子カルテの操作方法を知らない人がほとんどですから、コメディカルの記録も全部閲覧できることなどが面白かったようですね。
初回は6人でした。内訳は20代が1人と30代が5人です。「仕事を再開したいので参加した」という動機が一番多かったですね。
次のステップは病棟実習です。少し時間も長くなりますので、院内保育所も使用して頂いています。子どもさんがいらっしゃる方がほとんどですので、喜んで頂いています。
とにかく私どもの病院を知って頂きたいということですね。それで総合内科の医長に「八尾徳洲会総合病院の良いところと悪いところ」というテーマで話をしてもらいました。良いところは、徳洲会全体での良いところでもあるのですが、「365日24時間体制での救急医療」「夜間でも昼間と同じ検査ができる」といったところでしょうか。
急性期病院といっても、看護ケアそのものは変わらないんです。短い時間でもできる仕事もたくさんありますし、子どもさんが帰宅されるまでの空いた時間に無理のない範囲で勤めて頂けたらと願っています。
今のところ非常勤だけですが、面接の申込みを頂き、既に勤務を開始された方もいます。一人は子どもさんが2人いらっしゃるのですが、頑張って働いていますよ。もう一人は9時から夕方5時までの病棟勤務ですが、「大分慣れてきたので、できれば常勤に替わりたい」と申し出てくれるなど、本当に頼もしいですね。ブランクが長いと自信がなくなりますし、子育て期に仕事をするのは難しいですが、少しずつ仕事を再開して頂けたらと思います。
プログラムをあまり難しい内容にするのはだめですね。それから期間も長くしないで、1日ごとの単発にしています。何より「ここで仕事をしたい」と思って頂くことが大事ですから。
夜間も含め、24時間体制での保育、病児保育システムが完備していることですね。シングルマザーでも「ここはいいよね」と言っていますし、充分に働ける環境です。
私は愛媛県の出身ですし、実家を頼ることはできませんでしたが、幸いなことに上の子が生まれた頃、夫の母が定年退職して時間にゆとりができたんです。当時の国立京都病院には院内保育所もありましたし、そちらと夫の母に面倒を見てもらいました。また近所には夫の兄弟もいましたから、安心でした。何より子育てと仕事を両立させようと頑張った仲間の存在が大きいですね。お蔭様で良い環境で両立できました。
日中だけの勤務なら問題ないけれど、夜勤はだめだとか食事を作ってほしいとご家族に反対される例は聞きますね。患者さんの急変があったら、帰りたい時間にも帰れないですし、仕事を続けるためには家族の協力がどうしても必要ですね。
2008年を目処に新築を進めているところです。新病院は2階に救急病棟ができます。救急車が一般外来を経由することなく、2階に直接乗り入れ、手術室、ICUなども2階に全て配置されます。そういった救急重視の姿勢を貫くためには看護師をさらに増やしていかなくてはいけません。したがって潜在看護師の復職支援にもさらに力を入れていきたいと考えています。
臨床現場は確かに大変です。しかし簡単に辞めていくことが非常に残念です。医師は辞めるということがほとんどないのに、どうして看護師が辞めるのかというとプロ意識の差なのではないでしょうか。もっとプロ意識を持って頂きたいですし、自分がなりたくてなった仕事だということを忘れずにいてほしいですね。これからの高齢社会の中で、看護師の役割はさらに大きくなっていきます。今は看護師の職域もかなり広がっていますので、何かの形で生かし、社会に貢献して頂けたらと願っています。
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