vol.03 私達、ナースです!

Vol.3  精神看護専門看護師 光愛病院 冨川 順子さん

精神看護専門看護師
光愛病院 冨川順子さん

冨川順子さんは1994年に日本赤十字看護大学を卒業した。その後、大阪赤十字病院の一般内科、血液内科、内分泌内科に3年間勤務する。そしてイギリスで介護ボランティアの経験を積んだ。帰国後は非常勤での勤務をしながら学資を貯め、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護学研究科専門看護師コースに入学した。卒業後、2001年から光愛病院(大阪府高槻市)で精神看護専門看護師として勤務している。

まず、専門看護師になろうとした動機と、精神看護を選択された理由をお聞かせください。

 専門看護師は1996年度に日本看護協会での認定が始まりましたが、私は全く存在を知らなかったんですよ(笑)。4年制大学に行ったのも、3年制の看護学校より遊べるかなと思っていたぐらいですから。高校生の時は、私も漠然と大学で政治や経済を勉強しようかなあと思っていました。高校時代はアルバイトばかりしていて、成績もあまりよくなかったのですが、ただ「金儲けの勉強をするよりは、人のためになる仕事をするほうが自分の性格改善になる」というようなことを考えて、看護大学に進学したわけです。

 日本赤十字看護大学では、当時はまだ大学も大学院も少ない時代で、日本の看護界の第一人者の先生方に学部生も丁寧に看護のおもしろさを教えて頂きました。精神看護学は最初は「訳の分からない」イメージだったのですが、科学的に分析可能な分野であると理解できると楽しくなりましたね。精神分析的な視点の学習と、自分の洞察も行いました。自分がどうして看護を学んでいるのか、これからどういう看護をしたいのかということを徹底的に考えることのできる教育を受けることができました。それで精神科を専門にしようと思ったのです。

大阪赤十字病院では内科の配属ですよね。なぜ精神科ではないのですか?

 その当時、4年制大学出身の看護師は高等看護学校や医療技術短大などの出身者よりも技術が劣ると言われていたと私は思っています。私も注射などが苦手でした(笑)。臨床の現場に出て、患者さんの命を預かることに恐怖感もありました。まずは内科で、技術の習得に努めようと思ったのです。それに大学で頂いた奨学金は、3年間赤十字病院に勤務すると返還の義務がなくなりましたので、大学時から修士課程には進学したかったので、貯金は頑張りました(笑)。でも違うことに使ってしまったんです。

どういう使い道だったのですか?

 海外に行きたいと思っていまして、イギリスで介護ボランティアを経験しました。これで貯金をかなり使いましたね。イギリスでは家庭に住み込み、在宅ケアをしました。医療の質は日本の方が高い面がありますが、イギリスはそういうボランティアの使い方がうまいなあと思いましたね。在宅で死ぬまで過ごせる環境整備という面では非常に勉強になりました。英語は「ハリーポッター」を楽しめる程度には上達、といったところでしょうか(笑)。

そして大学院に進まれるまでは非常勤などの勤務をしながら、学資を貯めたのですね。

 そうですね。大学院に行くことについて、臨床から逃げたいという思いなのか、自分が本当に勉強したいのか、イギリスにいる間から考えていました。お金と健康があってチャンスがあるのなら、やっぱりもう少し勉強したいと思いました。兵庫県立看護大学には優秀な先生方が集まっていて、専門看護師について色々教えていただきました。最終的に専門看護師になろうと思ったのは宇佐美しおり先生に出会ったからでした。

どういう指導だったのですか?

 臨床での専門看護のおもしろさを改めて発見しました。精神科病院に週1回から2回、実習に行くのですが、そこで「今、何が起こっているのかをアセスメントして、考えながら動く」ことの大切さと、看護の専門性の深さ、おもしろさを具体的に教えられました。それを実行する先生の行動力も尊敬していました。

修了後に、光愛病院に入職された経緯をお聞かせください。

 こちらは宇佐美先生が非常勤で専門看護師として勤務していらっしゃったんです。それで紹介して頂きました。私は精神科での臨床経験がなかったのですが、覚悟を持ってやってみたいと強く思ったんです。先生と比較されるのは仕方がないことですが、先生のスーパーバイズと、看護部長のサポート、師長、主任や他のスタッフの協力を支えに仕事に取り組んできました。

 精神看護専門看護師の認定には、看護師経験5年以上と、精神科経験3年以上と、ポジションを持って活動することが1年以上必要です。去年、その基準をクリアーして、試験もなんとか合格したので認定を受けることができました。

専門看護師だからこそ、できる仕事とは、どういうものでしょう?

 一つのケースに深く関わることができることでしょうか。看護師は普通、9時から17時まで10〜20人ほどの患者さんの注射、点滴、検査など仕事を割り振っていくわけです。一日にこなさなければならないこと、担当の患者さんに必要なことを考えながら「この患者さんへは20分」など考えて仕事をしていきます。しかし、このポジションを持つと、一人の患者さんに費やす時間は格段に増えます。患者さんが生活困難な状況には、心の葛藤など何かの理由が必ずあります。一度話すぐらいで、その生活が改善されるわけではないですから何度でも定期的に話し合えます。また精神科に必要なのはチーム医療なんですね。医師やケースワーカーなど部署を超えた連携と調整を行えるのがよいところです。また、ほかの看護師へコンサルテーションができますね。

資格手当などはあるのですか?

 まず入職したときに、専門看護師手当をつけてくださいました。その後、認定を取ったときに、もう一度増額してくださいました。専門看護師は夜勤をしないので、夜勤手当の分が減額になってしまうんですね。ですから最初に専門看護師手当を作ってくださったことには感謝しています(笑)。

そういった面で、他の看護師さんから妬まれることなどはなかったのですか?

 面と向かっては「夜勤しなくてよくていいねえ」と言われたり、無視されることはありました。でもこちらから話しかけたりいろんな仕事を一緒にするうちにそういったことはなくなりました。

患者さんからは、どのように見られているのですか?

 病院によっては専門看護師だけ違う白衣を着ているところもありますが、こちらでは他の看護師と同じ白衣を着用しています。小さい病院ですから、患者さんもよくご存知ですよ。最初は「あなたは一体何者?」と言われたこともありますが、専門看護師という人らしいと思ってくださっているようです。ただ精神科の患者さんは自分の希望をうまく話すことができない人が多いんですね。「あなたからケアを受けたい」と言ってくださることもありますが、自分が抱いてしまった理想像であることもあります。そういうときは、その申し出をあえて受けずに医師や担当の看護師に話をして、患者さんの本当の理想のケアを掴むようにしています。

現在はストレス社会だと言われており、働き盛りの人たちのうつやうつ状態が増えてきているようです。こういった現状を、専門の立場からどうお考えですか?

 私どもでは統合失調症の患者さんが多いのですが、大学病院などではうつ病圏の患者さんが多いようですね。当院に来られるも自分の生き方を見失ったときに、うつが強まる傾向があると思います。たとえば40歳の頃は、自分のそれまでの生き方を見つめ直さざる得なかったり、体も更年期になったりして、自分の生き方を変えていかないといけない時期にうつが強まっている方が多いです。

 自分は人と比べて不幸だと思っていらっしゃる方が多いように思いますが、自分なりの目的が画一的なものから外れたときに、もう少し色んな生き方があるのだと思えるといいのですが。

専門看護師になりたいと思っている方にアドバイスをお願いします。冨川さんご自身は、本当にお勧めしますか?

 高等専門学校や短大を出て長く臨床の現場でキャリアを積まれた方には、大学資格を得て大学院受験をしなければならないのは、正直言ってハードルが高いのかなと思います。

 それでも専門看護師には論理的な思考が必要ですのでやはり最低修工過程は必要だと思います。基本的にはなりたい人には勧めますが、人によりけりですね(笑)。自分の失敗を他の人のせいにだけして終わる人には勧めません。自分から動いてポジションと仕事を創ることが求められますので、行動力がある人、根性のある人、分からないことでも最善を尽くそうと思える人にお勧めします。

 知的で地位や名誉のある仕事だと時々思っている方がいますが、現場で困難なケースや状況に向き合い、自分ももまれる仕事です。みんなしんどい状況なので怒りをむけられることもしばしばの肉体労働です。知的で地位、名誉のある仕事をしたいと思っておられる方には向かないと思います。
 現在は看護師の職域は非常に広がっています。看護師の質が問われる時代が来ています。看護の質をあげる働きに、専門看護師として何かしたいと思う人ももっと増えて欲しいです。

続いて、光愛病院の事務部総務課で看護師採用に携わっておられる谷合英志主任にもお話を伺った。

光愛病院として、これから専門看護師に求めることはどういうことですか?

 私どもも最初は専門看護師を採用したいと思いながらも、うまく使っていけるのかなあという不安はありました。ところが、宇佐美先生が畑を耕してくださったところに、冨川さんが築いたものがしっかりとできあがってきましたね。冨川さんは臨床の現場で引っ張り凧の存在です。直接ケアやコンサルテーションでは本当に尽力してくれています。また、私どもでは以前新卒での看護師は採用していなかったのですが、このところ、冨川さんに教えを受けたいという看護師が集まり始め、看護師不足がほぼ解消されています。冨川さんには今後とも看護師への教育をさらにカスタマイズした形で協力してほしいですね。

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