第42回 ナースは見た / 医療現場の裏側!?

第42回  私が貧乏だった理由

病院で使用される医療機器は多種多様ですが、中でもレスピレーター(人工呼吸器)は自発呼吸の困難な患者さんにとって生命維持に欠かせない非常に大切な機器のひとつです。

私がかつてアルバイトをしていた病院で、レスピレーターに関する事件が起こりました。
アルバイト先の病院では特段高度医療は行っておらず、重篤な患者さんもいらっしゃらない、急変(超慢性期なので語弊がありますが)時もDNRが基本なので、レスピレーターなんてものが使われる事自体、本当に極々稀な事なんです。
そんな病院で、ある患者さんにレスピレーターが装着される事になりました。

病棟全体が軽いお祭り騒ぎです。
みんながみんな、ソワソワソワソワ。

ビンボー学生兼、週一夜勤アルバイターの私は、常勤ナースさんにイマイチ信用されていなかった事もあり、

「貴女、大丈夫?
人工呼吸器の患者さんなんて見たことあるの? 本当にちゃんと見れる?」

なぞと、申し送り早々に有難いご心配のお言葉を頂戴したりしておりました。

さて、いざ患者さんの元へ。
まずはレスピレーターのチェックです。
蛇腹の破損無し!
接続よし!
コンセントプラグは自家発電用に切り替わって…無い、けど自家発電システム自体が無いから仕方無し!
トラップは…一体いつから捨ててないのか満タンに水が溜まってる、…けどハイ!破棄した、よし!
加湿器の水は…カラカラ、…だけどハイ!補充した、よし!

…って、

ナンヤネン、コレ。

出鼻を勢いよく挫かれながらも何とかチェックを進めて行きます。
さぁ最後は、呼吸器本体の設定値の確認だ!

えーと、えーと、……えーっ、と…。

ドクターからの指示値と、実際の機械の設定値が何一つ一致しないのは何故ですか?
見間違いかと思って、何度も指示表と機械を、それこそ穴が空くほど見比べてみても、やっぱり一致しない。

どーゆーこっちゃ。

もしかしたら指示が変更してるのかもしれない、とカルテを確認してもそんな記録は何処にもありません。
とりあえず申し送りをしてくれた、日勤の担当が師長さんだったから確認してみよう。
…と、師長さんに聞きました。

「あの、○○さんのレスピの件なんですが…。」

「何?やっぱり看るの難しかったの?」

「いえ…、ドクターからの指示と実際レスピに設定されてる値が全く違うんですが、何かご存知ですか?」

「え?何が?」

「あの…、ドクターが指示を変更したとかありますか?」

「良く解らないけど、多分無いと思うわよ。」
「えーと、じゃぁ師長さんがチェックされた時は別に問題無かったんですかね…。」

「チェック?さぁ、別に無かったんじゃない?」

「はぁ…そうですか。」

全くもって

ラ チ が あ か ん 。

何ですか、この無益な会話は。

仕方無くドクターに確認のコールを入れたところ、やっぱり指示の変更は無く、機械の方の設定値がガタガタにズレていた事が判明致しました。

病棟のトップである師長がこの有り様です。
正直その下で働いてる看護師なんざ、誰ひとり信用出来ネー(´Д`)
本気でそう思いました。

私は看護師一年目の頃、先輩ナースにレスピレーターのチェックは訪室ごとに毎回イチから確実に行え!
と、耳にタコが出来る程言われて育ちました。
訪室ごとにイチからチェックなんて、またまた大袈裟な~…なんて思っていましたが、まさかこんな所でその大切さを実感する事になろうとは。


さてさて、このレスピ患者さん、ビックリしたのはコレだけじゃありません。
何にビックリしたかと言うと、カルテの記録です。

「○月○日○○時

KT=37,8℃ 熱あり
SPO2=98%
大便多量 ベッド汚染激しい」

以上終わり。

37,8℃…うん、そうだね言われなくても分かるよ。
熱があるね、うん。
あ、オムツから漏れる位便がでたの。
あぁ、そう。

…で、
そんな事より呼吸状態に関する記録は何処ですか?

何日も何日も何日も何日も記録を遡ってみましたが、そんなものは

皆 無

換気量だなんだっていう、データが残ってないのはまぁ良い、まぁ仕方無い。
で、アンタ達、この患者の何を見てたんだい?

ウ●コがどれだけ漏れたかなんて情報

私 、要 り ま せ ん け ど 。

この病院で有事の際、例えば訴訟なんかが起こったりしても、全くもって勝てる気がしない。
と言うか、自分の身が守れない。

正直本気で怖くなりました。

私が、週一だったバイトを徐々に徐々に減らしていったのはちょうどこの頃からです。

だって、背に腹は変えられませんからね。

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