第38回 ナースは見た / 医療現場の裏側!?

第38回  真夏の夜の‥ Vol.2

夏ですね~。
夏と言えば怪談でしょう!
病院と言えば怪談話の宝庫。
基本的に非科学的なモノは信じないタチなのですが、ある夏の日に起こった出来事をお話し致します。
因に、怖い話ではないので怖がりサンもご安心を。

先月と出だしが丸々同じだよ~とのツッコミは不要です。
ご愛嬌です。ご愛嬌。
手抜きじゃございません。

8月の蒸し暑い夏の日、夜勤に勤しんでいた私に、その恐怖は襲い掛かりました。

深夜3時のラウンド。
寝静まる病棟。
非常灯とペンライトの心許ない明かりだけが頼りという、抜群に不気味なシチュエーション。

こんな時に限って、わざわざ怪談話を思い出しながら病室を見回る、素晴らしくマゾな私。

そんな私の足が、ある病室の前でピタリと止まりました。

817号室。

ここはナースステーションから近いと言う事もあり、余り容態の思わしくない患者さんが入室する事の多い病室です。

故に必然的に、この部屋でお亡くなりになる方も多い訳で‥。

その部屋の前の廊下で、ふわっと香ってきたのです。

お線香の香りが。

一瞬気のせいかとも思いました。
でも間違いなく、匂います。

前述した通り、私は非科学的なモノは信じないタチです。
目に見えないもの、聞こえないものを信じられる程、感受性豊かでもなけりゃメルヘンな性格でもございません。

しかし、しかしですよ。
実際匂うはずの無い場所で、匂うはずの無いモノが匂って来たとなれば話は別です。

ヤバイ、と思うより先に足が動き、一目散にナースステーションに転がり込みました。
鈍足の私が、驚異のスピードで走り抜けた瞬間です。

怪訝そうな顔をする先輩に、かくかくしかじかと説明し、半ば無理矢理手を引っ張って817号室の前まで連行。

相変わらず漂う線香臭。

先輩の顔を見れば、あからさまに表情が引き攣ってます。

しばしの沈黙の後、二人して叫びました。
うぎゃ~!!と。

私達の叫び声に、「何よ何よ」とゾロゾロ出てきたのは、お化け‥ではなく、817号室の入院患者さん。

当時817号室には珍しく、比較的元気な2人のおばちゃんが相部屋で入院中。

先輩とガクブル震えながら、線香の匂いが‥とおばちゃん患者さんに説明したところ、あぁ‥と、別に驚くでも無く、私達を部屋に招き入れました。

「これでしょ?」

と、指を指された先には‥

緑のうずまき。
ちょっぴり可愛いらしいフォルムのあいつ。
そう、憎き吸血害虫を撃退してくれる日本の夏の風物詩。
蚊取り線香。

それが部屋の至る所にご丁寧に設置されているのです。

なるほど。

そりゃ線香の匂いもしますわな。
こりゃ一本取られたよ。
ハハハハハ。
‥と、空笑いするしかありません。

ココ、8階ですけど、蚊って来るんですか?
とか、
数有る除虫グッズの中から、あえてそんなオーソドックスなものを選んだのは何故ですか?
とか、
色々頭の中ではぐるぐる聞きたい事はあるけれど、

「病棟は火気厳禁なので‥」

と、上の空で伝えるのが精一杯。

翌日にはきちんと、なんちゃらノーマット的な虫よけグッズに取り替えていた、素晴らしく聞き分けの良いおばちゃん達に、涙が出そうになりました。

ただ、始めからソレにして頂きたかったな‥とも思ったり思わなかったり。

そんな線香の匂いひとつでぎゃーぎゃー言ってた私も、今や立派な(?)葬儀屋の一員。

毎日毎日、線香の匂いが立ち込める職場で汗を流しているわけです。

まだまだ花ざかり(だと信じて止まない)の私から漂うのは、シャンプーでも香水でもなく、線香臭。

あぁ‥こりゃ当分嫁には行けそうも無いみたいです。

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