第37回 ナースは見た / 医療現場の裏側!?

第37回  真夏の夜の‥ Vol.1

夏ですね~。
夏と言えば怪談でしょう!
病院と言えば怪談話の宝庫。
基本的に非科学的なモノは信じないタチなのですが、ある夏の日に起こった出来事をお話し致します。
因に、怖い話ではないので怖がりサンもご安心を。

看護師一年目の夏、私は急遽入院することになりました。
理由は膝の故障。
ドクターに
「どんだけ激しいスポーツしたんだ?」
と聞かれても
「あたしゃ動く事は嫌いです。」
と首をかしげるばかり。

まぁ、とにもかくにもオペが必要だ、と言う訳で入院の運びになりました。
私の配属部署がたまたま整形外科だった為、そのまま自分のお馴染みの病棟へ入院。
大人の事情により、当院で最もハイグレードな個室に無料ご招待される運びになりました。

快適快適、と、優雅な入院生活を満喫していました、が‥。
私が快適な部屋は、他の人間にも快適な訳です。

見舞いと称して、クーラーがガンガンに利いた部屋で夜勤明けの惰眠を貪る先輩達。
見舞いと称して、食料を持ち込み映画鑑賞を決め込むナース友達。
診察と称して、やたら大人数で乗り込み、雑談を繰り広げるドクター達。

まぁ、暇する暇が無い入院生活です。

そんな有意義な日々のある日の夕方。
当院イチのイケメンドクターが病室を訪ねて来ました。

このドクター、顔良し、性格良し、腕良し、おまけにまだ若い!
と、三拍子ならぬ四拍子揃った、患者さんからもナースからもドクターからも大人気のドクター。

そんなドクターが、私の病室に沈痛な面持ちで登場したのです。
「ちょっと話、いいかな?」
なんて言いながら。
誰だって何かしら期待するでしょう。
夕暮れ時のこのシチュエーション。

「どうぞどうぞ。」

と椅子を勧めながら、「据え膳食わぬは女の恥じゃ!!」などと、訳の分からん妄想で頭の中はいっぱいいっぱいです。

でも現実と言うのは時にとても非情で残酷です。
彼が意を決して発した言葉‥それは、
「あのさ、この部屋って‥出るってホント??」

一瞬、何の話か分からずポカンとしていると、
「いや、なかなか患者さんには聞けないじゃん?この部屋って、出ますか?なんて。」

ニコニコしながら、ご丁寧に胸の前で両手をぶら~んとさせていらっしゃる。
そう、ステレオタイプな幽霊の格好。

いやいや、私も一応患者ですが‥とか、ツッコミ所は多々ありましたが、なにせ「据え膳‥うんぬん」なぞと不毛な妄想を繰り広げた羞恥心から、

「いえ、まだそちらの方にはお会いしていません‥はい。」
と、答えるのが精一杯。

「そっかぁ‥」
と呟く彼の肩は何処か寂しげ。

アンタ、どんだけ幽霊に会いたいんだよ。

てか、実はいわくつきの病室です、と暗に知らされた私の残りの入院生活どないしてくれんねん。

冒頭にも言いましたが、非科学的なモノは信じないタチです。
信じちゃいないけど、心なしかドンヨリはします。
どっかの怪物王子のように、幽霊出て来て「愉快~♪痛快~♪」とはいきません。

信じちゃいないけど、心なしかドンヨリしている私を尻目に、件のイケメンドクターは、

「じゃあ、出たらすぐに教えてね♪」

と、誰もがコロっと引っ掛かる爽やかな笑みを投げかけて白衣の裾を翻しながら颯爽と去って行かれました。

その日から残りの入院期間、妙に夜中のトイレは避け、妙に病室の鏡を見ないふり、妙に背後に敏感に気を配るという、快適な生活から一変、悪夢のような日々を送ることに。

せっかくの特室入院が一人のイケメンによってオジャンです。

しかしながら、本当の地獄は退院した後にやってきました。
折しも入院期間は職員の夏休み取得期間中。
10日程度の入院でしたが、それを3日間の夏休みと、その月の公休で全て補われていました。

退院翌日から、地獄の様な連続勤務がスタート。

やりやがった‥あの師長め‥(3月コラムに登場の師長様です)
うちの病院には、‥否、私にはハナから有給休暇なんてものは無かった様です。

入院中に使えない有給休暇って一体いつ、どんな時に使える休暇なんでしょう?

何度も言うようですが、私は非科学的なモノは信じないタチです。

私は生まれてこのかた、幽霊に嫌がらせをされた事はありません。
が、この師長にはたった3年で数々の姑息な嫌がらせを受けて、それこそ死活問題。

幽霊よりも、生きてる人間のがよっぽど怖いって話です。

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