中国人ナース
朱 英さん(仮名)
昨今、日本へ留学する外国人は多いが、この稿でご紹介する朱英さんは故国中国で看護師をしていたという経歴を持つ。
四川省の成都という街です。そこで1980年に生まれました。父は製麺工場を経営していましたが、高齢となった今は退職しています。4歳上に姉がいますが、一人っ子がほとんどの中国では珍しい二人姉妹です。
小さい頃は洋服のデザイナーに憧れていました。ところが姉から無理だと聞かされ、さらに看護師への道を勧められました。そこで中学を出て、隣りの綿陽市にある衛生学校に進学することになりました。衛生学校には3つの班があり、看護師、助産師、医師に分かれています。看護師は一番倍率が高く、私のときは3倍でしたが、無事合格しました。
学校は3年制で最初の2年が座学、最後の1年が病院実習です。綿陽の大きな病院で実習したのですが、患者さんと話すのが楽しかったですね。この3年間で看護師免許を取得することができます。日本では正看護師、准看護師と資格が分かれていますが、中国では皆同じ資格ですので不思議ですね。仕事に差はないと思うのですが・・。
姉が成都のホテルに勤務していまして、私も成都で就職することにしました。20床の腎臓専門病院です。患者さんは腎炎などの腎臓病患者や透析患者がほとんどです。透析に関しては専門の看護師がいたので、私は病棟担当でした。透析専門の看護師になるためには1年ほどの研修が必要とのことでした。そこで3年勤務しました。
病院の上が看護師の寮になっていたので、通勤は楽でしたね(笑)。8時30分に出勤して、病棟に行って、患者さんの点滴や朝食の手伝いをします。食事は基本的に患者さんの家族が介助されるので、看護師はその手伝いが中心です。それから血圧を計ったり、検査の準備など午前中はとても忙しいです。
12時30分からは昼食を取って、寮で昼寝です。この習慣は日本にはないようですね(笑)。それから14時30分に病棟に戻り、患者さんのベッドを回ります。何かあれば話を聞きます。その病院にはナースコールがなかったので、こまめに回っていました。それから綿棒作りもあります。綿を竹に巻いて、蒸して消毒します。17時30分に業務終了です。当直は週2回のペースでした。
患者さんとのコミュニケーションです。毎日お散歩に行くのが楽しかったですね。元気になって退院されたあと、お宅に招待されてマージャンすることもありました。症状が軽い患者さんとはお散歩だけでなく、お茶を飲みに行ったり、公園に魚釣りに行ったりしました。まだ10代だったこともあったのでしょうが、かわいがって頂いていました。
看護師は20人いました。医師は院長を含めて6人です。院長とあと1人が腎臓の専門医で外来を担当しています。そのほかの4人の医師は一般内科医で病棟勤務でした。一般内科医の中には新卒の先生もいたので、若い雰囲気でしたよ。たまに院長が執刀する手術の介助もしましたが、特に緊張することはありませんでした。
衛生学校の高い倍率が示すように人気のある仕事です。「白衣天使」と呼ばれているんですよ。白衣やキャップは日本のものと同じです。私はキャップが大好きなんです。キャップをかぶると「しっかりしなきゃ」と思うんです。最近、日本の病院ではキャップをかぶらないところが増えているそうですが、淋しい気がしますね。
姉が既に日本に来ており、日本人のサラリーマンと結婚していました。その姉から日本の医療が進んでいること、日本でも看護師免許を取れることを聞き、若いうちに色々チャレンジしたいなあと思って、留学することにしました。日本に来る3ヶ月前に仕事を辞めて、成都にある四川大学の語学学校に通って、日本語を勉強しました。
看護学校に入学するほど、まだ日本語が十分ではありませんでした。それで姉の家の近くにある短大に入りました。食物栄養学を専攻した理由は少しでも医療と関連のある分野に行きたいと思ったからです。
私としては看護学校に進学したくて、インターネットで資料請求をしていたのですが、どの学校からも資料が送られてこなかったのです。外国人だからなのでしょうか。それで日本語の勉強をさらに進めるために、4年制大学へ編入しました。今度は専攻にはあまりこだわりがなく(笑)、日本の地方財政について勉強しました。卒論は経済学とは関係なく、「ネットワーク」について書きました。アルバイトも頑張って、ラーメン屋や定食屋、マクドナルドなどで働きました。マクドナルドでは他の日本人スタッフから最初は無視されたりしたのですが、頑張って仕事を覚えていくと、そういうことはなくなりました。接客などは看護師経験が生きていると思いましたね。他に日本人のサラリーマンに中国語を教えるアルバイトもしました。
日本の看護学校は学費も高いですからね。それで、大学卒業後は関西の機械メーカーに就職することにしました。生産管理部門に配属されることが決まっています。その会社は近い将来、中国に会社を作るようなので、中国での生産管理や通訳などの仕事もする予定です。そこでお金を貯めて、看護学校に進学したいです。
看護師としては専門病院の経験しかないので、大きな病院に勤務してみたいです。中国で看護師をするのなら、なおさら100床以上の病院がいいですね。診療科には特にこだわりがありません。日本の医療は大変進歩しているので、勉強していきたいですね。これからは日本も中国も高齢社会となって、看護師のニーズは高まると思います。日本と中国の両方の資格を持ちながら、アメリカなど、さらに他の国にも行って医療について学びたいという希望も持っています。英語も勉強する必要性を感じています。