私達ナースです(看護師の声)

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Vol.13  ベッドサイドケア 看護師にしかできないケアを 小原病院 看護部長 光冨 京子さん

ベッドサイドケア 看護師にしかできないケアを
小原病院 看護部長 光冨京子さん

ベッドサイドケア。一般的にはあまり馴染みのない言葉である。具体的にどういう行為を指すのだろう?小原病院 光冨看護部長はこう話す。
 「極力ベッドのそばにいて、患者さんが必要とする援助を行うこと…純粋な医療行為に限らず、患者さんを助けるすべての行為を含みます。それこそが、医師よりも近くにいる看護師ならではのケアだと思いませんか?」
今回ご紹介する光冨京子さんは、九州の看護学校を卒業後、福岡の国立病院や外科系のクリニックで、合わせて5年間勤務した。その後結婚し上京。看護師の仕事から離れ、約10年間育児に専念した。1995年、小原病院で看護師の職務を再開。以後、看護師だからこそできる患者へのケア———ベッドサイドケアの実践に尽力してきた。2001年には看護部長に就任するが、引き続き看護業務と後輩の指導に邁進している。

《看護師としての意識———「ミニドクター」ではいけない》
 最初にお勤めになった国立病院で、看護師としてのあり方を厳しく教え込まれたそうですね。

 そこで面倒を見てくれた先輩看護師が、私の憧れだったのです。後輩への指導はとても厳しい人でしたが、その一方で患者にはとても優しく、私が過労でダウンした時も本当に親切にしてくれました。仕事に対する厳しさと、人に対する優しさを兼ね備えた、すばらしい人でした。憧れはいつしか、「私もこうなりたい」という目標に変わっていきました。

そうして他院も含め5年間お勤めになった後、ご結婚。いったん現場から退かれたわけですね。

 看護師の仕事に燃え尽きてしまったんです。「もうこの仕事は絶対にやらないぞ」と思いました。結婚して東京に行き、出産してからは育児に専念します。
 子供が成長して手がかからなくなった頃、次の仕事を考えました。すると何だかんだ言いながら、やりがいを感じられるのは結局、看護の仕事しかなかったんですね(笑)。

なるほど。新たに選んだ小原病院という職場は、いかがでしたか?

 九州時代に勤務したところより小さな病院で、良さもあれば、足りないと感じるところもありました。当時、何よりも改善しなくてはいけないと思ったのは、看護師たちの意識です。「先生(医師)の指示さえこなしていればいい」という空気があったのです。その考え方だと、看護師の仕事が最低限の医療行為のみに限られてしまって、患者さんに快適に過ごしてもらうための配慮が欠けてしまうのです。

「このままではいけない。看護師全員が、患者さんにプラスになる関わり方をしていかなければ」と思い、まず私が実行することからはじめました。

患者のそばにいる看護師ならではのケア―ベッドサイドケアですね。

 若い看護師たちに、看護の仕事とは何なのかを突き詰めて考えて欲しいのです。最近の看護師は、医者と同じ視点で仕事をしている人が多くいます。医学知識は豊富でも看護に対する意識が薄い、まるで「ミニドクター」のような人もいます。いくら知識があっても、看護師としての本分を忘れていては本末転倒です。医者にできないことこそ私たちがやらなくてはいけない。
 ベッドサイドケアで行うこと自体は、洗髪、清拭、体の向きを変える…、そんなに特殊なことではありません。強いて言えば、それらをマニュアル通りに行うのではなく、患者さんの状況を良く観察しつつ、そのつど最善の援助をすることと言えるでしょう。

《病院は 生活の場 ——— 患者を喜ばせる「気づき」を》
つまり処置内容そのものよりも、より良い援助のための配慮こそが本質であると。またそのためには、できる限り患者の近く——ベッドサイド——にいなくてはならない、こういうことですね?

 はい。病院を「治療の場」としてのみとらえて欲しくありません。入院患者さんにとっての病院は同時に「生活の場」でもあります。じゃあ最低限の医療行為だけではなく、穏やかに過ごしてもらうための幅広いサポートが必要です。治療の主役は医師でも、生活の場を創っていくのは看護師しかできません。

 「できる限り患者さんのそばにいて、必要とされることを援助する」これがベッドサイドケアの精神です。それは患者さんの話を聞くことも含みます。生活の場で、仲の良いおしゃべり相手がいなかったら悲しいですよね?
 穏やかに生活してもらうこともまた、患者さんの回復につながります。医学的に見てもプラスは大きいのです。

ベッドサイドケアの実践で、最も大切なことはなんでしょう?

 「気づき」ですね。例えば体の向きを変えるといっても、ただマニュアル通りに動かせばいいものではありません。寝たきりの患者さんが苦しい姿勢でいたとしても、看護師が気づかないことには始まりません。また呼吸に苦しんでいる時は、胸郭を広げて空気が入るように体の向きを考えなければいけなくなります。こうしたことも、手順通りに仕事をこなしているだけでは見えてきません。
 知識・技量もさることながら、やはり感性が大切なのでしょうね。鋭い感性があれば注意深く患者さんを見ますから、いくらでも仕事が見つかります。逆に感性が鈍い人は、酷な言い方ですが看護師に向いてないのだと思います。

患者さんが寝たきりのお年寄りだったりすると、さらに配慮が必要になりますね。

 寝たきりだと口もきけない人が多くいます。普通なら「苦しい」と訴える場面でも、意思表示がうまくできないことがあるのです。通り一遍の対処をしたとして、それで患者さんは本当に苦しくないのか?本当は辛くても、「痛いよ、苦しいよ」と言えずに我慢しているのではないか?一人一人の患者さんに対し、常に立ち止まって考えてみて欲しいんです。マニュアルさえこなせばいいというのは、恥ずかしい考え方だと思います。
 常に見られているという意識が必要です。看護師としての役割を勘違いしていたり、人の痛みに鈍感だったりすると、患者さんに伝わってしまうんですよ。まして相手がお年寄りであれば、体が弱っていても人生経験豊富な方々です。見ていないようでいて、一挙手一投足をしっかり見ています。逆に言えば、そんなお年寄りに心から喜んでもらえてこそ看護師として一人前でしょう。

《大病院からの患者 時には「犯罪のような褥瘡」も!》
大病院からの転院も、多く受け入れていらっしゃるそうですね。

 前にいた病院から患者さんについての情報(看護サマリー)がくるのですが、これが膨大な量なのです。患者さんの状態について細かく観察されているのがわかります。ところが、看護実践の方はとなると、首をかしげざるを得ない時があります。

 例えば、一ヶ月前に手術をした患者さんに、手術直後のイソジン消毒液の色がそのまま残っていたりします。あるいはフケが枕元で山のように溜まっている人や、水虫で苦しむ人もいました。ロクに洗ったり拭いたりしてあげなかったのが、一目でわかりますね。
 あとは褥瘡ですね。もう頭から踵まで、犯罪のような褥瘡の患者さんが運ばれてきたこともあります。

犯罪のような褥瘡…。どう対処されたのですか?

 私たちの褥瘡対策の基本は、まず消毒液は絶対に使わないこと。第二に、洗浄だけを粘り強く続けることです。消毒すると細胞にもダメージを与えてしまいます。人間の体が本来持つものを大切に守りながら、根気良く丁寧に洗浄を続け、組織そのものをよみがえらせるのです。
 褥瘡だらけの患者さんが入ってこられた時は、週に3〜4回入浴してもらいました。お風呂は一回あたり2時間ほどかかり、入れる側の看護師にとっては大変な重労働です。しかしあきらめずに続けることで、一年もするとほとんど治ってしまいました。
 消毒してガーゼを被せて、あとはほったらかし…これでは看護とはいえません。小さい病院でもやれることのすべてに妥協なく取り組めば、良い医療ができるのです。

《次世代の看護師たちへ ——— 志を支える強さを》
若い看護師さんたちを指導されていて、何をお感じになりますか?

 先にも述べましたが、知識が豊富だったり、あるいは観察力があったとしても、それだけでは良い看護師とはいえません。現実に患者さんのプラスになることを「実践」しなくては意味がないのです。個々の患者さんにとって何が必要なのかを常に考えていて欲しい。その背景にはあたたかい思いやりが必要です。入院患者にとって病院は生活の場。一緒に暮らし、お世話をする看護師は、彼らの家族でなくてはならないはずです。
 こうしたことを言い続けても、すべての看護師が解ってくれるわけではありません。でも少しずつですが、私の訴えに共鳴してくれる若い人が出てきています。

今後に期待ですね。

 志ある若い看護師たちを、とにかく大切に育てていきたいです。病院という組織の中で働く上では、しがらみもたくさんあります。それに負けないだけの強さを持ってもらいたい。
 心構えを中心に話していますが、看護師としての知識・技術ももちろん必要です。それに加え、現場では判断力が重要になります。こればかりはある程度年齢を重ねる必要があるかもしれません。いい人生経験を積むことで、看護師としても熟してくるわけですから。

お話を聞いているだけで、奥が深く、厳しい仕事であるのが伝わってきます。

 期待するからこそ、スタッフには厳しいことも言ってしまうのですが…、看護師の意識改革も少しずつ進んでいます。以前は急な欠勤をする人がいたのですが、今はほとんどいません。患者さんや同僚に迷惑がかかるという自覚は、みんなしっかり持っているようです。

後輩の指導の一方、管理職(看護部長)としてのお仕事もあるわけですが。

 両方を同時にやると、さすがに仕事量は多いですね(笑)。でも管理職になって現場を退くのだけは絶対に嫌でした。部長の仕事と並行して現場を見て、若い人の指導もしたかったんです。
 管理職になって痛感したのは、やはり医療現場のプロが病院経営に積極的に関わっていくべきだということです。もちろん事務方の職員は頑張ってくれているのですが、医療という極めて専門性の高い分野のすべてを任せるわけにはいきません。
 現場の要求を医療現場で通していくためには、「必要性の根拠」を示すことが大切です。購入して欲しい設備があるなら、「なぜそれが必要か」を粘り強く丁寧に説かなければなりません。

《使命感ゆえに、やめられない仕事》
転職を考える看護師に、アドバイスをお願いします。

 あまり簡単に転職するのはどうかと思いますね。この仕事は粘り強さも必要ですから。
 若い人の中には、社会人としての意識が欠如している人もいます。仮にも人の命を預かる仕事ですから、その重みを考えてもらいたいのです。「楽に働いて、楽に給料アップ」なんてことを考えるのであれば、看護師以外の仕事を選んだほうが良いでしょう。
 まず何よりも先に、自分の仕事への責任感を持ってもらいたいですね。その責任を果たすことで、信頼される看護師になって欲しい。ミスは誰にもあるんです。ただ隠してはいけません。正直に話し、謝ること。そして同じミスを繰り返さないこと。そうすることで、一人の人間に対する信頼が生まれていくんです。

ベッドサイドケアの考え方の根本は、「看護師だけができる、患者へのケア」ということでした。看護師が自分の仕事を見つめ直すことこそ、ベッドサイドケアの第一歩かもしれませんね。

 そうですね。せっかく大変な仕事をしているのです。看護師しかできない仕事を頑張った方がやりがいがありますし、その中にこそ面白さが詰まっているんです。
 面白い仕事ですよ。モノ相手の仕事じゃなくて、いろんな人を相手にできます。自分の頑張り次第で関わった人たちに喜んでもらえます。冒頭でも言いましたが、「見ている人は見ている」んです。頑張りには必ず評価が返ってきます。患者さんに「あなたで良かった」と言ってもらえる嬉しさは、他の仕事では味わえません。
 嬉しさが使命感になって、休めなくなる、やめられなくなる、そんな仕事ですね。

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