私達ナースです(看護師の声)

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Vol.10  NICUで働く看護師 宇治徳洲会病院 師長 江口 比呂美さん

NICUで働く看護師
宇治徳洲会病院 師長 江口比呂美さん

NICUとはNeonatal Intensive Care Unitの略語であり、極低出生体重児や新生児仮死など様々な問題をもった新生児を集中治療、管理するための新生児集中治療室である。

宇治徳洲会病院(京都府宇治市)では2000年に6床の認可を受けて新設した。京都市内にはNICUを持つ病院も数院あるが、宇治市を含む京都府内の南部地域には少なく、地域のニーズを受けての開設だった。

看護師を目指したきっかけからお話し頂けますか?

 高校生のときに病院に勤務していた知り合いから勧められ、ずっと続けていける仕事ということにも憧れて看護師になろうと思いました。勤労学生だったので、午前は外来の診療介助や外科病棟での看護助手をしながら、午後から夕方までは学校に通って勉強しました。その後、専門的に勉強したかったので病院を休職して看護学校に入学し、正看護師として再入職しました。

そのときは小児科・整形外科の混合病棟だったそうですが、ご自分で希望されたんですか?

 最初は救急や外科を希望していました。結果がはっきりと目に見えるところに面白さや憧れがあったんですね。ところが整形外科も外科の一部だと言われて(笑)、配属されました。最初は小児科が苦手だったので、早く外してほしいと思っていました(笑)。子どもが身近にいなくて、あやしたりすることも恥ずかしくて接し方が分からなかったんですね。その後、私自身が結婚や出産を体験して気持ちのうえで大きな変化がありました。

そして2000年にNICUが新設されることになったんですよね。新しい施設を立ち上げるにあたっての苦労談などお聞かせください。

 小児科の業務も長くなって慣れてきたので、何か違うことをしたいという思いがありました。今までの経験を生かして、なおかつキャリアアップできるということで自分で異動の希望を出しました。立ち上げに関しては福岡県の聖マリア病院でキャリアを積んだスタッフが3人ほどおり、彼女たちを中心に準備を進めていきましたが、私には分からないことだらけでした。早い状態で小さいまま生まれた赤ちゃんがどんなものなのかも分からなかったですね。赤ちゃんによかれと思って看護したことが実は赤ちゃんには負担になっているのではないかということが常に不安でした。

 600グラムぐらいの体重で生まれてきた赤ちゃんは3000グラムまで育つのに半年ほどかかります。その間ずっとそばにいてお母さん代わりの存在になるので、お母さんとは違う愛情が生まれてきます。そして退院の日が楽しみになってくるのです。そういう毎日の積み重ねで、不安や苦労も少なくなっていったような気がします。

ドクターカーでの業務についてはいかがですか?

 それまで救急車にも同乗したことがなかったので、初めはやはり戸惑いましたね。その場でしなければならない対応はどういうものなのか、どういう情報を取ればいいのかということに緊張しました。常にイメージトレーニングをして、その緊張感や不安を払拭するように努めました。

 赤ちゃんを迎えに行くときは、道を空けてくれない車にはイライラします。「サイレンが聞こえへんのかあ?」と怒鳴りたいですよ(笑)。赤ちゃんが乗れば、赤ちゃんに集中します。ジャクソンリースを使っての呼吸管理や搬送の間に体温が下がらないような体温管理が主な業務です。

 このごろは母体搬送が増えたので、ドクターカーとしての同乗の機会は減りました。母体搬送に関しては産婦人科の助産師と毎日情報交換を行って、看護の体制を整えています。

宇治徳洲会のNICUの特徴についてお話しください。

 徳洲会全体の特徴として救急を断らないことがあります。受け入れに関しては赤ちゃんにリスクのある状態をいかに早く、その赤ちゃんにとっていい状態にしていけるかという体制作りを病院全体で取り組んできました。

NICUでの遣り甲斐は、どういうところにありますか?

 赤ちゃんは自分で不調を訴えることができないわけですから、毎日細かく観察して変化を見逃さないことが大切です。赤ちゃんが生まれた直後から、初めての帰宅までを見ていけることが大きな遣り甲斐ではないでしょうか。中には状態が悪くて1歳の誕生日を病院で迎える子もいますし、小さく生まれてきただけでなく後遺症や障害が残る子もいます。そういう赤ちゃんのお母さんは自分を責めてしまうんですね。なかなか事実を受け入れられないご家族もいらっしゃいます。そのようなときには「大丈夫ですよ」と声を掛けるだけでなく、毎日の変化を見逃さないようにして「昨日より今日の方が調子がよさそうね。」「よく起きているね。」などといった「いい方向に向かっていること」をお母さんと一緒に見つけていくようにしています。

お父さんに対しては、いかがですか?

 お父さんは限られた時間しか病院に来られない方が多いですから、お母さんに比べると赤ちゃんを「かわいい」と実感されるまでの時間はかかりますね。ただ、NICUに入院した赤ちゃんに最初に会うのはお父さんなんですね。そのとき、お母さんは容態が安定していないことも多いです。お母さんに赤ちゃんの様子をどのように伝えていくべきか一緒に考えています。お母さんが安定するまでお母さんを支えていくのはお父さんの役割です。そして赤ちゃんが家族の一員にしっかりと加わっていく過程を見ていけるのも遣り甲斐の一つですね。

宇治徳洲会病院ではカンガルーケアの実施も大きな特徴ですが、詳しく教えて頂けますか?

 カンガルーケアとは保育器内の赤ちゃんは順調に回復し、状態が安定したら保育器から出して、お母さんやお父さんの肌に直接触れ合うように、胸の間に立て抱きするケアです。最初は15分程度なのですが、条件が整えば1時間ぐらいは可能です。お父さんも関われますので、好評を頂いていますね。

 開始にあたっては経験者のスタッフの意見を取り入れたり、東京や大阪での研修会に参加して知識を得ながら、当院独自の方法を構築していきました。利点としては呼吸や体温の安定が挙げられますが、少し間違えば大きなリスクとなります。保育器に入っているべき赤ちゃんを外に出すわけですから、逆に低体温にもなりかねません。また呼吸が早まったり、母乳の消化時間がゆっくりになることもありますので難しいですね。

 カンガルーケアは今日行ったからといって明日よくなるものではないので、長い目で見ていくことが必要です。そして安定して行える環境を作っていかなくてはいけません。当院では受け持ち看護師によるカンファレンスを毎朝行って、スタッフが共通認識を持つようにしています。カンファレンスでは、カンガルーケアの次の日に悪影響はないか、今後も継続して行えるのかということを中心に話し合っています。

MRSAなどの感染症対策についてお話し頂けますか?

 MRSAだけ特別に考えているわけではないですね。確かに赤ちゃんは感染しやすいですから、徹底した滅菌を心掛けています。ガイドラインに基づいて「何が必要で何が不要か」を常に考えて改善していくようにしています。一人の赤ちゃん専用の聴診器やストップウォッチ、ボールペンなども常備して、その赤ちゃんのためだけに使うなどの工夫をしていますが、一番の基本は手洗いです。「一処置したら一回手洗い」を徹底しています。忙しいとなかなか難しいのですが、私は後輩にうるさく指導しているので「小姑みたい」と言われています(笑)。
 「MRSAプラス」という検査結果が出たら、NICUだけでなく病院全体の恥だと思っています。「振り返ろう、気をつけよう」という気持ちを持ち続けていきたいです。

今後の課題についてはいかがでしょうか?

 現在、当院のNICUは産婦人科からの入院が半数なのですが、分娩数が年間600例と非常に多いために、きちんと回転するには6床という病床数は少ないですね。分娩が重なるとコントロールが難しいです。今後は小児科と協力して周産期医療センターのシステムを整備していきながら、増床を考えなくてはいけないと思います。

 また、今年の秋にはNICUを「卒業」した赤ちゃんのお母さんたちによる「親の会」の初めての交流会が行われました。私どもも赤ちゃんに会いたかったですし、裏方としての協力は惜しみませんでした。入院しているお母さんたちにとっても、医療者ではなく先輩のお母さんたちに話を聞いてみたいこともあるはずですから非常に意味のある会になったのではないでしょうか。

 私個人としては、看護師になってからずっと小児科系統で働くことが多かったのですが、今後は他科の専門知識も学びたいですね。どの診療科に行っても与えられた仕事にベストを尽くしていきたいです。

プライベートについてもお聞かせください。

 家族は夫と小学2年生の男の子がいます。お休みの日は子どもと過ごしていますね。子どもはイルカと泳ぐことが夢でスイミングスクールに通っているのですが、今年の夏休みに実現させてあげることができました。

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