今、日本の病院でがんばっている韓国人の看護師
菊池さん
菊池さんは韓国で看護師として活躍されていて、ある事をきっかけに、7年前から日本にやってきました。いま現在、言葉や文化の壁を乗り越えて、日本の病院でがんばっている。韓国と日本の医療の違いに関する様々な話しを伺った。
すごく個人的なことですが、私は朝鮮大学附属病院で働いていた時に韓国で結婚していた人と離婚したんです。私にとって、離婚は一つの失敗だと思ったんですね。それで、見ず知らずのところでゼロから始めたかったんです。イチからやり直したかったんです。
人生のターニングポイントというか、自分自身の中で「このままでいいのかなぁ。」という思いがありましたので、韓国ではなく他の国で「看護師として働きたい。」という思いが強くなってきたんです。
日本に決めたのは言葉的に「英語よりは日本語のほうがいいかな。」とか「同じ漢字の文化だから理解しやすい所もあるんじゃないかな。」とおもったからですが、実際日本で働く友人や先輩もいなくて情報もないし、私自身も日本語は全く喋れない状況での決定でしたから、不安も多かったですね。
まず日本の社会に慣れなければならない。その為には日本語を書く・読む・話すができないといけなかったので、昼は韓国キムチを作る工場で働きながら、夜間に川崎にある日本語学校に通って勉強して、帰宅後また復習したりしました。また、必ず朝新聞の社説を読んで理解し書く練習をする。毎日必ずそれを実行すると決めていました。はじめは、理解するまでに6〜7時間かかりましたが6ヶ月後には、だいたい読みながら理解することができるようになりました。
それと6ヶ月間休みの日はほとんどボランティアセンターで、朝9時から夜9時・10時までずーっと勉強しました。実際、日本語を書く・読む・話すことができるまでには、1年くらいはかかりました。それで新しい目標として、日本語検定1級取得を目指したんです。当時を振り返ると、とにかく早く「日本の社会に入りたい。」という気持ちで一杯でしたね。
はい。1級を取る為に勉強をしながら、どうやったら韓国の看護師が日本で通用するかを調べました。厚生労働省に問い合わせたら「書類を用意して厚生省に出しなさい。」と言われました。提出書類は、韓国での卒業時の成績表・卒業証を数えたら全部で20種類以上もありました。その書類を、4月か5月に出して審査が終わって合格がでたのは11月くらいだったかな。でもその合格というのは日本で正看護師国家試験の受験資格を得たという意味なんです。
初めて日本で勤務したのは急性期の総合病院で1年半くらい勤務しました。感想として看護業務の疲れや人間関係の悩みなどで毎日家に帰る夕方には、頭が痛かったほど、本当体力的にも精神的にもきつかったです。看護業務や人間関係毎日家に帰る夕方には、頭がずーっと痛かったです。それである日思ったのが、「あぁこれって寿命が縮まったんじゃないかな。」と思いました(笑)。それで、今の職場に転職したんです。
医療機器とか機材は、ほとんど同じだと思いますね。ただ患者さんの接し方は相当違う気がします。韓国の社会では、老人を敬うという考えが基本ベースになっているので、看護に関しても同様の考え方が浸透していましたので、患者さん(特に高齢者)に対する接し方や言葉使いは韓国の、方が丁寧だったと思います。日本の看護師さんは老人に対して、子供を扱うような感じなので、暖かい感情が抜けてるような気がします。韓国のほうが患者さんに対する接し方や言葉使いが暖かいんじゃないかと思います。
病院内の危機管理については、私がいた7年前までの韓国では、もちろん感染しないようにはしていましたが、MRSAの患者さんがいたとしても、ガウンテクニックぐらいで、「気をつけなさい。」とか、そのくらいだったんです。日本では、備品の場合、「これは2回使ったらダメ。」とか、「滅菌面もキレイで、感染しないように。」ということが基本になっていて、必ず手を洗わなければならない、外出したりとか入る時の着替え、ガウンテクニック、肌を消毒しなければならないなど病院内の危機管理については徹底していて素晴らしいと感じましたね。その辺は日本はすごく丁寧じゃないかと思います。
韓国で看護師をやってた時は、看護体制が2対1とか5対1とか、わからなかったですね。看護の人数をこれでやるっていう体制は無くて、婦長さんに「この病棟は何人いるから何人で対応して行きなさい。」と言われればその通りにしてきた感じです。こんなに忙しさを感じなかったですね。
韓国も辞める人は沢山いるけど、日本みたいじゃないですね。3ヶ月で辞める人、1ヶ月で辞める人、1年経たないうちに辞める人とか、いつ誰が辞めるとか、そういう不安な状態、落ち着かない状態ではなかったですね。
お給料は日本のほうが高いですが物価も高いので、それを思えばそんなに差はないです。日々の生活でお金が減っていく割合は、日本での生活でも韓国の生活でも同じです。
日本にきて「頑張れば何でもできる!」と、私自身が再認識しました。例えば韓国では、40歳(今の自分の年齢)になって、看護師を目指して資格を取ったとしても、簡単に採用されるような所は無いと思いますね。確かに、日本が韓国より豊かだとか、職場の数が多いなどの違いがあるけれども、それだけではなく、実際日本では頑張って認められるようなレベルになれば、年齢に関係なく希望が持てる社会だと思います。それは日本の社会のいいところだと思いました。ダメな所と言うよりも、一番寂しさを感じたのは、心を開いて話をできる相手がいないことかな(笑)。今の転職先では、前職と仕事の内容が違うからかもしれないけれども、みんながゆったりしているから会話も増えたので、その辺はちょっと解決してるんですよね。
今は戻りたくないですね。日本は「努力すれば自分の希望が叶えられられる。」と私は思っているので、もっとがんばっていきたいです。日本のことをもっと知りたいし、まだ勉強したいことあるんですよ。それは介護福祉関係なんですが、理由として日本で介護保険が適用されて、65歳以上の人たちには1年に1回国がお金だして、健康診断をするようになってるでしょ?そのおかげで早期に病気が見つかって、大事に至らない人たちもいるじゃないですか。韓国にも同様の体制はありますが、全ての人が国の体制や予算の問題などで受診できるわけではないんです。今の日本にとっては当たり前のことかもしれないですけれども他の国から来た人たちから見れば、これはすごく裕福に見えるんです。また、障害者に対してのケアができているのが、すごくうらやましいです。逆に韓国の場合は、障害者に対してのケアが本当にできてないなと思います。それで私が年を取って韓国に帰る機会があるとしたら、日本で学んだ介護福祉のことを役立てたいと思い、今、放送大学で生活と福祉について勉強しています。
私がボランティアで勉強していたときに、先生から紹介してもらいました。それでお付き合いをし始めて結婚したのはそれから1年後くらいでした。
日本人の男性は、家とかで家事とかも協力してくれるような女性に対して献身的な社会だと思っていましたけれど、実際はまだ女性が男性を立てているという感じで、少し違っていましたね。韓国では共働きが多いから、ほとんど男女平等の考えが当たり前になっているんです。だから韓国の奥さんよりも日本の奥さんの方がストレスがたまってるんじゃないかなぁと思いますね。それに韓国の場合は、男性は軍隊に2年くらい行きます。そして帰ってくるとすごく思いやりが深く広くなって頼りがいのある“大人の男性”になって帰ってきますね。
「冬のソナタ」をはじめ、韓流ドラマを通して日本の人達が、韓国に興味をもってもらえたことはとてもいいことだと思いますね。実際私が7年前に韓国から来た時は、スーパーとかデパートに行ってもキムチも日本製でしたし、本場韓国の食料品がなかったですね。でも最近は韓流ブームと同時にだんだん増えてきているので、すごく嬉しいことですね。ただ本当の意味の韓国の文化についてはまだ知られていない部分もあるので、もっと日韓が共感しあうことができればいいと思いますね。そして政治的にももっと近づいて欲しいですね。
休日は、ふだん料理できない日もあるので、韓国の郷土料理などを作ったりキムチも作りますね。私は、光州(クワンジュ)出身で、子供の時から食べてきたもの(たぶん光州風かな?)をします。例えば、肉料理とか海苔巻きとか、イワシ料理とかも結構多いですね。
同じ韓国人を集めて応援はしなかったのですが、家庭内では、主人と上の娘が日本人なんで日本を応援し、私と下の子が韓国人なので韓国を応援しました。お互い顔に国旗を書いたりして大盛り上がりで凄かったですよ(笑)。韓国がイタリアに勝った時はすごく嬉しかったです。その時は、私が勝ったような気持ちになりました(笑)。うちの子供もその時、韓国から日本に来たばかりで、中学生だったんですね。言葉は全然わからないし、少しいじめにもあってたりして少し沈んでいましたが、「お母さん、今日はねすごく気分が良くてね、私、誰にも負ける気がしなかったよ。」っていってましたよ(笑)。今まではちっちゃくなってたんですけど、その日からは人気が出たそうですよ。
上の子は、今工業高校に行ってるからどうでしょうか?下の娘は、看護師じゃなくて、「医者になりたい。」って言い出して頑張ってるみたいですけどね。
私的な感想を言えば日本はDrは上の人間、看護師は下の人間みたいな壁があるような気がします。看護師がDrに対して言いたいことがあったとしても、どうやって言おうかよく悩んでることがある。悩まなくても、もっと気軽に言えて相談できる関係にまだなってないですね。それは看護師だけの問題ではなく、Dr自身も自分がすごく偉くなっているみたいな感覚でいることも問題だと思います。
韓国ではそんなに感じなかったですね。前にもいいましたが韓国は高齢者を敬う習慣があり年配のDrにたいしては私達看護師も優しく接しなければならないけど、同世代や若いDrに対しては気軽に会話ができていましたね。
日本の看護師の現場では、Drが出した指示を本当に忠実にしたがって実践する。これが基本ベースですから、しょうがないと思いますけど。韓国の看護は、色々な看護の問題点をDrに言います。それでDrは、看護師のカルテをすごい熱心に見てるんです。最近は看護師のカルテ見るDrをずっと見てないです。
ただ、お互いにに確実にコミュニケーションがホントにできてないんじゃないかなぁと。
韓国ももちろん失礼な所も多々あるんですけど、でも韓国はDrは看護師に対してもっと平等なんですよ。それが大きな違いですね。
文化の違いによってすごく傷つくことが沢山あると思います。同じ看護の仕事でも、先生の指示を確実にしなければならないという緊迫感が、日本の看護師さんにはすごくあるんですね。もう一つは、この文化の違いによる、外国の人たちはすごく苦労すると思うんですけど、ストレスがあるんですね。私の経験談ですが、例えば、平仮名には慣れていましたがカタカナにまだ慣れていなかった頃、薬剤名はほとんどがカタカナなので理解するのに時間が掛かりました。例をあげると「セ・フ・メ・タ・ゾ・ン」とか、全部一づつ字を読めなければならない。韓国の言葉だったら、この単語だけを見たらぱっと目に入るでしょ。カタカナの横文字はじーっと見ないといけないので大変でしたよ。それと患者さんの名前と顔が一致しなくてね。朝、カンファレンスの時に、患者さんの名前で「高橋せつこさん」とか「高橋よしこさん」とか外国人からみたらほとんど同じ人の名前に思ってしまいますので結構苦労しましたね。私も患者さんを前にして初めて名前と顔が一致していましたから(笑)。でもそれを乗り越える為には、自分自身で何かをしなければならないんです。日本語をちゃんと理解して自分の意見がもっと言えれば、もっと楽しく仕事が出来ると思いますね。もちろん言葉の障害を乗り越えることも大変だと思いますので、色々慣れるまで大変だと思うんですけれども、専門性を身に着けて、負けない努力を少しずつする気持ちが大事だと思います。
生まれ変わったら、私は医者になりたいですね。医者の方がいいとか医者がうらやましいとかそういうことじゃなく、看護師をしてみると、看護師が患者さんにやってあげられることって、本当に限られてるんですね。こうしてあげたいんだけど、看護師だからできない。こうして欲しいけど、看護師の仕事の限界があって、もっと患者さんのことをやってあげることは実際にない。だから、医者になって本当の医療がしたい。だからこれからもこの日本で様々なことを学び続けたいです。