元救命センター勤務の看護師
諏訪淳子さん (仮名)
毎日重篤患者が送られてくる救命センター。
そこで働いていた時の事を振り返り、赤裸々に語っていただきました。
全く大丈夫ですよ。ただ、指先とかを切って血が出ているような痛みが分かる光景は全然だめです。釘が刺さったりとか、特に痛みが分かりそうで気持ち悪いですね。ただ、頭を圧懐された姿は、本人はもちろん、まったく痛みという形として捉えられないので問題ありませんよ。
そうですね、本当にぐちゃぐちゃだったのは、犬に顔を咬み取られてしまった患者さんが運ばれて来た時は本当に凄かったですね。白目とかも犬に咬まれて両目が失明してしかも口が完全に裂けてしまって顔に肉がないんですよ。気管挿管も出来ない状況でした。絶対にこの状況は顔に餌を塗っていたとしか考えられないような現状でした。ひどかったです・・・。
救命ってその人の事情がどうであれ、何が何でも助けられてしまう面もあります。だから自殺未遂でも運ばれたら救命されるんです。それが使命ですから。だから命を助けられて良かったという人もいるけど、その反面生かされてしまったとか、望まない命も助けられてしまったとかありますね。
半端なく高いですよ。開胸オペしたり、透析したり、800万円なんて良く聞きます。夜間のオペ代も普通の一般急性期病院より相当高いでしょうし、救命(センター)はどこも非常に高いです。だから、高額医療費を適用して毎月払ったりと大変だと思いますよ。基本的に患者さんは生命の危機があったらどこに行きたいとか、ここに行きたいとか選べませんから、救急隊が判断するんですよね。2次救急だとかね。だから、保険に入っていないような患者さんが救命に来ようものならもう最悪ですね。怪我までして大金払わなくてはならないし生活がもう無茶苦茶になると思います。
よくあるのが、不法滞在している方たちね。だからそういう人は絶対に逃げるの。救命のスタッフは、彼らがお金払えなくて、絶対に逃げるのがわかっているから、オペ後も酸素マスクもしない、抗生物質もしない、点滴もしない。逃げられるから経費を抑えているっていう現状も当時はあったの。いなくなったなと気が付けば、道路に点滴棒がぽつんと立っていたり、凄い光景でした。しかもそういう人達は、よく刺されてまた運ばれてくるケースが多いです。3年間で3例を看ていますけど、みんな刺されて来ました。
相違と言うか私がすごいなって思ったのが、私の勤めていた救命の医師はみんなオンコール対応で30分圏内にいることです。しかも医療ミスが許されないこと!救命という施設はほとんどが独立採算型でバックがないんです。だから、ミスしたら終わりです。看護部のマイナーミスはいくつかありましたけど、医師は見たことありません。
そうです、断ってはいけないからこそ救命センターなんです。仮に断るようなことがあれば、救命救急センターとしてのランクが下がってしまいます。他で取ってくれないから救命に来るんです。それが救命センターなのです。
救命で働いていると、何が良いとか悪いとか分からなくなる時があります。勉強も出来たけど、心はやっぱりぼろぼろになりましたね。スタッフ教育とか、教育面で、色々な面で疲労が溜まります。人によって教育の仕方が異なるのも救命という独特な環境かもしれません。感情論でモノをいう看護師もいますし、この子には教えるけど、この子には教えないとか色々ありましたよ。
救命ってやっぱりかっこいいじゃないですか。ちょうど私の入った時は救命救急ブームで‘救急24時’とか、テレビでよくやっていたから、ナースのお仕事は現場とは全く違いますけど、私は元々根っからの負けず嫌いで高校の時に高看の学校を受けて全部「桜散った」んです・・それで遅れた分を全て取り戻そうと思って、救命だったら短期集中コースで全て出来ると思っていましたし、色々な患者さんを看ることが出来ますし、ずっと集中して勉強が出来ると思っていました。私は基本的に結構独特な人が多い慢性期の患者を看ることは苦手でした。だから当時救命と他の部署を自分の中で差別していたところもありましたね。私のいた救命センターはみんな「凄いね」と言われますし、私も言われたい部分もありました。プライドも本当に高かったですし、本当に負けず嫌いなんです。当時の自分の性格を振り返れば相当きつかったと思います。
初めにもらった資料は何百枚あったでしょうか。おそらく300枚近くありましたね。それを読んでおいて下さいって言われたものですから、凄かったですね。初めICUに配属になったんですが、本当に何回胃を壊したのか分かりません。私の1年目はICUですから機械を把握しないと看護できないんですよね。なんか機械と看護している感じが強かったです。当時はそれを覚えるだけで本当に必死で機械が出来ないとむちゃくちゃ怒られるわけです。ですから今思うと、当時ICUにいた看護師さんの中に一体何人が、家族ケアや、患者ケアをしていたんだろうって思います。
たまたま救命病棟に1人の看護師さんがいて、その人は今でも尊敬している看護師さんですけど、その看護師さんは心のケアをメインにしている方でした。「看護ってメンタルなんだよ」みたいな。ちょっと仲良くなりまして、それからその人に吸い込まれるくらいに付いていって、私の心の師匠になりましたね。病棟に行く前、私は救命センターはICUが全てだと思っていました。でも、病棟でメンタルを含めた看護をするようになってからは凄い楽しくなって、メンタルだったら私に聞いて下さいというくらいになりました。救命は本当に人の命を落としたりする現場じゃないですか。大切な人とかね。だから病院スタッフが歩き回っている中、ぽつんと待合室で待っている患者さんの家族のそばにいてあげられるのが救命に属する看護師として大事な事ではないでしょうか。
すごい苦手な管理職看護師がいました。一言も喋ったことが無かったんですけど、1対1で面接の時にボロボロに言われました。あなたはリーダーになる価値が無いとか、オーラが無いとかね。でも私の親友にはとても良くしていて、その人が結局リーダーになってしまったのよね!すっごい仲の良い親友でもあり、闘志メラメラのライバルだったから、その日はもう自己葛藤して本当に号泣しましたよ。もう潰されるくらい泣きに泣いて、涙が枯れるくらいにです。でも「その子には私は負けたくありません」ってはっきり言いましたけど!それでまたその嫌な管理職看護師と面接をしなければならない事があって、友達から「まずは褒めてごらん」、って言われたの。開口一番、声を震わせながら引きつりながらも、「管理職って大変ですよね・・・」って言ったんです。すると向こうも緩んだんだと思います。今までの壁が全て崩壊した感じでした。一緒にご飯も食べにも行きましたよ。「こんな性格の人だったの?」だって!人間関係はやっぱり歩み寄りは大切だと思います。救命看護師さんって性格きつい面もありますし、自我を出さないといけない面もあると思いますが、そこで頑張って壁を無くすと、今まで1しか教えてもらってなかったことが3、そして10まで教えてもらえるようになったりとかね。相手に構えず緊張させない雰囲気作りは大切ですよ。
私のいた救命はとても独特でした。処置、取り決め、感染予防ガイドラインなど、救命にいた事が全てだと思ったのですが、様々な処置を行うのでパスなども勿論ありませんでしたし、無い分きっちりやっていた面もありますし、出来ていない面もありました。ただどこの病院よりも先生と看護師は対等の立場で意見が言い合えましたよ。その分、看護師は相当勉強しないといけませんが。
・・・とても古い部屋でした。雨漏りもしていて冬のボーナスもらう時にクリーニングたくさん出そうと思ってたんですけど、色が付いててもう最悪!即刻クリーニング代請求しましたね。あと、忙しかったですが、ちゃんと料理はしていましたよ。同期と皆で集まってご飯作ったり、一品持って集合したり、先に帰って料理したりと楽しかったです。やっぱり苦労を共にした看護師とは仲が良いですよ。確かにその当時は良い意味のライバルでしたけど。今でも交流はありますよ。
一言で言うと「やらせ!」「いいとこ撮り!」です。テレビでは全て感動というか、死の淵から這い上がったみたいなものが前面に出ていますよね。でも、本音をいいますとね、私そういう救急関連のテレビは見たくないです!やっぱり辞めたくなかったのかも知れませんが、心の奥底にはやっぱり救命やりたいという気持ちがあるんだと思います。でもたまに見ていると最先端の救急がそこにはあって、なんとなく自分が遅れていく気がして・・・。だから見たくないんです。でも本当は見たい気持ちはありますけどね。
もう無理だと思います。動けませんし、今の年齢なら心身のことも、と色々な制約を受けますよね。家庭の事情だとか、救急やりながら子供育てられますか?ただ今でも救急に戻りたい気持ちはすごくあります。
患者の手をそっと握ってあげられる看護師さんに救命に来て欲しいです。結構、患者の手とか冷たくていつも震えているんですよ。手をさすってはダメなら足をさすってあげたりね。それでね、患者が意識を回復したときに、「誰かが足をずっとさすってくれてたんだよね・・・だからあの時、すごい心強かった・・・誰かは分からないけど・・・良かった・・・」なんて事も実際にありましたよ。家族にムンテラに行く時にも記録ばっかり書くのではなくて記録を置いて肩をタッチングしてあげたり、それだけでも全然違いますしね。要は、看護師は動けてなんぼの看護師ではなく、機械相手の看護師でもなく、生身の人間を看る看護師が本当の救命の看護師さんだと思います。
私はどこで働いていようと自分の意識を持つことだと思います。言い換えれば自分の看護感をまっとうできるかだと思います。救命にいようが、クリニックにいようが、老健にいようが、自分がこの人を助けてあげたい、患者の笑顔を見てみたい、元気になって欲しい、それはどの科も一緒じゃないですか?救命で大変な時でも患者の手を握ってあげられるとか、患者の顔を拭いてあげられるとか、などね。救命に入ってしまうとどうしてもミニドクター寄りになってしまいますから、どうしても心の部分がおざなりになってしまいますね。心と体は一緒ですから、心を元気にしてあげなかったらどんなに体を元気にしてあげても治っていかないと思います。それに気づかない頭パンパンの看護師は自分自身の重圧に負けていって潰れていきます。そうではなく一番大事なのは人とのつながりですから、患者から看護婦さんって呼ばれるのではなく、「ねえ、誰々さん?」と名前を呼ばれたり、顔を覚えてもらったり、笑いの雰囲気を自然と作れるようにしたり、そういう知識以外の面も必要じゃないかな。意識が無い人、顔が潰れた若い子、などたくさんいますが、どんなに知識があっても信頼関係がなくては絶対にダメ。溜口の方が心を開きやすい場合もあるし、時には下の名前で呼んであげたほうが喜ばれる場合もあります。実は、そういう看護は救命ではことごとく否定されます。救命ではご法度なんです。いつも私は怒られていました。でも、私の尊敬する看護師さんはいつも病棟で患者さんを面白く笑わせることが上手で、いつもその人が部屋に入ってくると、ぱっと部屋の雰囲気が明るくなったりしました。私はそういう看護師になりたい。ちゃんと節度を持って使い分ければ問題はないと思いますよ。心を大事にする看護師ね!