研修先で看護師さん(プリセプター)の話を訊くと「本人にやらせることが大事だと分かっていても、忙しい現場では自分がやった方が早いと思ってしまう。」など、ストレスを感じている方や悩みを抱えている方が多くいらっしゃいます。
指導しやすい環境を求める声も多いのですが、実は、後輩がもっとも影響を受けるのは、身近にいる先輩の姿勢なのです。どんなに整った環境でも、様々な人材育成の手法を取り入れても、ご自身の仕事に対する心構え・姿勢が後輩に伝わります。
今回は、後輩と関わる上での「指導」と「育成」についてふれていきたいと思います。
新人CAの時、プリセプターのような制度のII(インフライトインストラクター)制度があり、目標設定をして細かいチェックシートを書いて担当の先輩のもとで乗務していました。
フライト中「何やっているの?それではダメよ!」ある先輩から厳しく怒られました。マニュアルを暗記したとおりやったのに、どうして怒鳴られるのか納得できなかった私はIさんに泣きながら不満と悔しさをぶつけました。
一通り私の話を聴いて、気持ちも理解してくれました。そして、「それは何の為の作業だと思う?」と質問が始まりました。「そのためにできることってマニュアルに書いてある一つだけ?」幾つもアイデアが出てきました。マニュアルは基本であり、それを基に自分で考えることの大事さと面白さに気付かせて頂きました。
「そう、方法は一つじゃないの。お客様の安全性と快適性、利便性のためにできることを常にベストを考えサービスを創っていくのよ」と、いつもこのように指導を受けていました。
頭で分かっていても、なかなか思うように仕事ができなくて毎日泣いていた新人時代でしたが、1年後には「何を任せても安心」と言ってもらえるようになりましたし、どんなに勤務がハードでもやりがいを感じ仕事を楽しめるようになりました。
仕事においての指導とは、問題解決をするために必要な方法や技術、情報を教えることです。
ここで大事なのは、何事にも万能で「これさえやれば大丈夫!」というものはなく、どうしたらできるだろう?と考えると、智恵や手法は何万通りもあるということです。
指導は「相手に選択をさせること」であり、教えたとおりに相手にやらせることではありません。
もちろん、職場内のルールは守るものですが、「決まりだから守りなさい」ではなくて、何故そのルールがあるのか?何のため?誰の為?をしっかり伝えることで相手にそのための行動を選択させるのです。
そして、もう一つ大事なことは、指導したことを相手がやる気になってやることです。
相手をやる気にさせること、これが「育成」です。
人はやる気になってはじめて人の話をきき、教えられたことを行動にうつすようになります。つまり育成ができていなければ、指導したことが活かされず無駄になってしまうのです。
やる気になるということは、どんな状況でもどうしたらできるだろう?と考え行動できる自立姿勢です。そのためには、まずこちらが見本となって姿勢を見せることが大事です。
普段の発言や行動をみて、この人の言うことを聞こう、聞かないでおこうと判断しています。先輩が「仕方がない、これが仕事なのだから」とか「看護部長の指示だから、理由が分からなくても言われたことをやればいい」と思っていたら、その態度や姿勢が後輩に伝わり、仕事に魅力を感じなくなります。仕事が辛いもの、疲れるもの、やりたくないものと教えるのは最も身近な先輩の姿なのです。
仕事そのものが面白いかどうかよりも、どのように取り組んでいるのかが問題です。自分がまず、どんな業務でも目的意識を持ち楽しむ姿を見せることで、後輩もその姿勢を見習って仕事に対して積極的に取り組めるようになるのです。
どのような気持ちで仕事をしているのかをお互いに知ること、想いを共有することは「育成」の中でも大切なことの一つです。特にスキルも経験も要りませんので、お互いの看護観や看護師を志した理由、想いを自由に語り合う機会をつくってみませんか。また、その中で病院の理念や看護部の方針の由来、患者様とのエピソードなどにも触れ、組織の一員としての自覚と日々の業務のやりがいへとつなげていきましょう。
やまとなでしこ塾主宰。
短期大学卒業後、大手百貨店に就職、人材コンサルティング営業、国際線客室乗務員、美容系サロンマネージャーなど、さまざまな角度から人と接する現場経験を積む。
「マナーは方法ではなく心を伝えること」を念頭に、現場経験を活かした実践事例に基づいた講演は、幅広い年齢層の女性からの共感・支持を得ている。
やまとなでしこ塾他、企業や公的機関、医療機関でのマナー講座、接遇サービス研修などを実施している。
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